三島由紀夫原作『美しい星』を現代に蘇らせた、吉田大八監督の手腕
3.11以降の日本の状況を見直す映画
そして、劇中で使用されている平沢進さんの『金星』も素晴らしい。この曲を軸にする発想が面白いなと思いました。『金星』自体は1980年代に作られた楽曲なので、この作品のために作られたわけではありません。それなのに、違和感なく溶け込んでいます。三島さんの原作は1962年に執筆されたもので、それを2018年~19年の舞台に置き換え、1980年代の楽曲を使って、2010年代に実写映画化する。時代の違うパーツたちをはめ込んで繋ぎ合わせ、整合性がある作品として新たに生み出しています。そこが最も吉田監督の手腕を感じるところですね。
今『美しい星』を実写化する意味については、吉田監督自身もインタビューでおっしゃってましたが、3.11以降の日本の状況を今だからこそ見直す必要があるからです。三島さんの原作はキューバ危機や核戦争の恐怖をテーマにしていましたが、映画『美しい星』は地球人口の増加やそれによるエネルギー問題、さらにその先に起こる地球温暖化と異常気象をテーマにしています。これは、震災を直接的に描くとあまりに生々しく、そこにしかフォーカスが当たらなくなってしまうからです。でも、3.11を忘れてはならないというテーマが根底にはあります。復興支援がまだ必要であること、終わっていないということを遠回しに訴えかけているんです。
3.11で日本人はある種、覚醒しました。こういうことやらなきゃだとか、こういうことに気をつけなきゃだとか、これ大丈夫なのかなだとか、みんなそれぞれ何かしらに目覚めたように思います。ただ時が経つにつれ、人間の記憶は忘却されてしまう。そのため、再び眠りにつきつつあると思うんです。作品の中、負の遺産を次の世代にそのまま残すのかとか、今まで好き勝手やってきたのにとか、議論されているのは、現実とリンクしていますよね。今の日本にとって国民ひとり一人が本当は考えなきゃいけないことや、震災の復興がほとんど進んでいないという現実から、多くの人が目を背けていると思うんです。だからこそ今、もう一度目覚めて気づく必要があるんですよ。しっかり向き合って考えなきゃいけないことを先送りにしている現状を、改めて考え直すきっかけを与えてくれる作品だと思います。宇宙人が地球の未来について議論を交わしていますが、本当は地球人、つまり当事者の私たちが考えなきゃいけないんじゃないか、と問われているのではないでしょうか。
(取材・構成=戸塚安友奈)
■DARTHREIDER a.k.a. Rei Wordup
77年フランス、パリ生まれ。ロンドン育ち東大中退。Black Swan代表。マイカデリックでの活動を経て、日本のインディーズHIPHOP LABELブームの先駆けとなるDa.Me.Recordsを設立。自身の作品をはじめメテオ、KEN THE390,COMA-CHI,環ROY,TARO SOULなどの若き才能を輩出。ラッパーとしてだけでなく、HIPHOP MCとして多方面で活躍。DMCJAPAN,BAZOOKA!!!高校生RAP選手権、SUMMERBOMBなどのBIGEVENTに携わる。豊富なHIPHOP知識を元に監修したシンコー・ミュージックのHIPHOPDISCガイドはシリーズ中ベストの売り上げを記録している。
2009年クラブでMC中に脳梗塞で倒れるも奇跡の復活を遂げる。その際、合併症で左目を失明(一時期は右目も失明、のちに手術で回復)し、新たに眼帯の死に損ないMCとしての新しいキャラを手中にする。2014年から漢 a.k.a. GAMI率いる鎖GROUPに所属。レーベル運営、KING OF KINGSプロデュースを手掛ける。ヴォーカル、ドラム、ベースのバンド、THE BASSONSで新しいFUNK ROCKを提示し注目を集めている。
■公開情報
『美しい星』
TOHOシネマズ 日本橋ほかにて公開中
出演:リリー・フランキー、亀梨和也、橋本愛、中嶋朋子、佐々木蔵之介
監督:吉田大八
原作:三島由紀夫「美しい星」(新潮文庫刊)
脚本:吉田大八、甲斐聖太郎
音楽:渡邊琢磨
製作:「美しい星」製作委員会
助成:文化庁文化芸術振興費補助金
企画・制作プロダクション:リクリ
企画・製作幹事・配給:ギャガ
(c)2017「美しい星」製作委員会
公式サイト:gaga.ne.jp/hoshi/