『PRODUCERS' THINKING “衝撃作"を成功に導いた仕掛け人たちの発想法』鼎談(前編)

藤井健太郎 × BiSHアイナ・ジ・エンド × 高根順次が語る、「好きなことで生きていくホントの方法」

アイナ「内容が面白くても結果が出るわけじゃない」

 

高根:これは持論なんですけれど、アンダーグラウンドなヒップホップが好きな業界人って、間違いなくみんな良い人なんですよ。藤井さんもPUNPEEに番組の音楽を依頼したり、ゆるふわギャングの映像を手がけていたりして、ヒップホップと親和性があるし、アイナちゃんももともとダンスから表現を始めている。だから、二人ともすごく良い人だと勝手に思っています。

藤井:(笑)それって、なにか理由があるんですかね?

高根:世の中になにか物申したいと思っている音楽ジャンルって、いまはロックではなくてヒップホップとかダンスミュージックなんだと思います。ダンスミュージックはその身体性や享楽性で表現してるわけですが、ヒップホップが発信しているメッセージに共感して憤っている人は、基本的に純情なんじゃないかなと。僕は自分で言うのもなんですが、未だにピュアな子どもの心を持っているおっさんだと思っていて(笑)。でも、その純情さをそのまま出すのは恥ずかしいから、何重にもフィルターをかける。そうすると「この人ってなにを考えているのかわからない」と思われるんです。

アイナ:純情って(笑)。

高根:でも、自分もいつかは何かを発信しようと企んでいる純情な人って、組織に居場所を見つけるのが難しかったりしますよね。逆に、カルチャーが別に好きではなくても、うまく派閥を作って出世していく人間もいる。

藤井:自分の表現したいことややりたいことがないと、結局のところ、仕事のモチベーションって出世しかなくなっちゃうんですよね。でも、クリエイティブの世界が出世を目指すだけの人ばかりになってしまうのは、やっぱり良くないですよ。

アイナ:ただ、いつの間にか目的がすり変わっていくこと自体は、理解できます。わたしも最初はただ、自分らしく人とコミュニケーションをするために歌っていて、歌い続けたいからプロを目指していたのに、いつの間にか「もっと売れたい!」って思うようになっている。そういう自分に、ちょっと違和感はあるんです。

藤井:でも、売れたいって気持ちを持つこと自体はすごく大事なんじゃないですかね。ただ、順番として、まずは「歌いたい」、そして「売れたい」と考える必要はあると思う。「売れてお金がもらえるなら、別に歌わなくても良い」ってなってしまったら、違うと思うけれど。僕らだって、まずは面白いものを作りたいという気持ちがあった上で、それをヒットさせて色んな人に見て欲しいと考えています。でも実際には、内容はなんでも良いからとにかく売れたい、褒められたいという考えの人もいる。逆に、売れなくてもいいから自分の好きなことをやるという人もいるけれど、それは単なる趣味で、プロフェッショナルじゃないですよね。だから、結局両方とも必要なんですよ。

高根:そのバランスが難しいですよね。『フラッシュバックメモリーズ 3D』をプロデュースしたとき、会社がすごく評価してくれたんですよ。「高根くんは変わったね」とか言われて。でも、自分としてはこれまでに手がけてきたものの延長にあるもので、実は本質的にやってきていることは変わっていなかったりするんです。なにが違うかというと、ちゃんと商業的な成功を収めているかどうかで、結果が出なければ内容的な部分はほとんど評価されないんですよね。

藤井:内容を評価できる人って、実はあんまりいないんですよ。中身がいくら面白くても、それを正確にジャッジできる人なんて基本的に0だと思った方が良いくらい。対外的な評価が伴わなければ、同じ会社の中にいる人だって、その良さには気づかない。そこが難しいところです。

アイナ:ある意味、わたしたちアーティストよりもシビアなのかもしれませんね。お話を聞いていて、わたしに制作は絶対無理って思いました。藤井さんの「芸人キャノンボール」は、あんなに面白いのに視聴率は全然良くなかったって仰っていたじゃないですか。わたし、それを知ってすごくビックリして。内容が面白くても結果が出るわけじゃないんだなって。

 

高根:たとえば100人中5人が、1万円払ってでも見たいと思う作品と、100人中30人が、タダなら見てもいいかなっていう作品があったとして、テレビの世界で評価されるのは後者なんですよね。

藤井:視聴率って、あくまで見ている人数のカウントですから、面白かったかどうかを測るものではないんですよ。だから、なんとなく流して見ることができる番組が勝っちゃうことも多い。「このあとマル秘ゲストが登場!」って煽って、顔にモザイクかけて、視聴者はなんとなく「誰なんだろう?」って見続けるみたいな。でも、それを見終わって視聴者の心になにかが残るかというと、たぶん何も残らない。ところが最近は人々の趣味が細分化してきたこともあって、どんなジャンルでも、好きな人に向けて狭く深く作るのが有効になってきているんです。そうなると、テレビの作り方も全く変わってくる。ネットとの融合で、さらにその方向性は加速すると思います。

高根:アイドルカルチャーなんかは、実はその最たるものですよね。ファンが好きなアイドルに直接お金を使う。それに対する批判もあるけれど、実は誰かが傷ついているわけではないから、それはそれで良いんじゃないかと僕は思っています。それに、アイドルカルチャーはビジネスモデルが確立したからこそ、すごく発展して、音楽的にも尖ったものがたくさん生み出されている。

アイナ:たしかにBiSとかも、ちゃんと売れていたからこそ尖ったことができたわけですもんね。

高根:SNSなどで細分化された趣味が可視化しやすくなっていることは、藤井さんにとってプラスですか?

藤井:やっぱり、視聴者の反応が見えることで、この方向性で間違いないかなって確認できるのは便利ですよね。ただ、20年前なら同じ内容でもっと視聴率が取れたし、評価も得られたはずだって、言われることもありますね。今って、面白いものと数字を取るものがイコールではないんですよ。たとえば『ごっつええ感じ』はゴールデン帯にやっていて、数字もすごく取っていたけれど、今見てもめちゃくちゃ尖った番組で、決してわかりやすさを目指していたわけではない。今やったら絶対に数字は取れないと思います(笑)。

アイナ:わたし、『ごっつええ感じ』はめっちゃ好きです。YouTubeで見たりします。未だに面白くて、LINEのアイコンにしていたぐらい。

藤井:ですよね?やっぱりそれだけ人の心に深く刺さってるんです。だから、数字は取らないけれど商売にはなるはず。『ごっつええ感じ』の新作だったら1回500円で配信しても、見る人はたぶんいっぱいいる。システムが変われば商売になるし、それだけの価値があるんですけれど、今のテレビだとあんまり評価されない。でも、そこが今、転換点に差し掛かっているのかもしれません。

 

(構成・写真=松田広宣)

 

後編はこちら

 

■商品情報
『PRODUCERS' THINKING “衝撃作"を成功に導いた仕掛け人たちの発想法』
著者:高根順次
価格:1,600円(税抜き)
発売日:4月28日
判型:四六判
頁数:288ページ
発行:株式会社bluerpint
発売:垣内出版株式会社

【高根順次】
1973年生まれ。大学卒業後、AVEXD.D.(現・AvexGroup)入社。半年間のAD生活で社会の洗礼を受けた後、スペースシャワーTVへ転職。フリーペーパー『タダダー!』の立ち上げに始まり、『スペチャ!』『爆裂★エレキングダム』他、数多くの番組をプロデュース。現在はライブ動画をウェブ上にアーカイブするプロジェクト『DAX』やヒップホップ番組『BLACKFILE』を担当。一方で『フラッシュバックメモリーズ 3D』をきっかけに映画製作に乗り出し、以後、『劇場版 BiSキャノンボール2014』、『私たちのハァハァ』、『劇場版 BiS誕生の詩』,『WHOKiLLEDIDOL? SiS消滅の詩』と、2017年春までに4本のプロデュース作を劇場公開している。

【目次】
第1章 プロデューサーとはどんな仕事なのか?...『フラッシュバックメモリーズ 3D』
第2章 プロデューサーに必要な資質、考え方、行動...『私たちのハァハァ』
第3章 共に戦える“仲間”の見つけ方...『劇場版 BiSキャノンボール2014』
第4章 プロデューサーが持つべき〝覚悟〞...『監督失格』甘木モリオ
第5章 “奇跡の作品”が生まれるまで...『この世界の片隅に』沢村敏
第6章 作家主義を成立させるために...『恋人たち』深田誠剛、小野仁史
第7章 インディーズ映画のサバイバル術...SPOTTED PRODUCTIONS 直井卓俊
第8章 社会問題とドキュメンタリーの接点...『FAKE』木下繁貴
第9章 王道回帰のドラマ作りが視聴者を呼び戻す...『逃げるは恥だが役に立つ』那須田淳、峠田浩
第10章 テレビと映画の垣根をどう捉えるか...『ディアスポリス』横山蘭平、西ヶ谷寿一
第11章 コンテンツの魅力を最大化する“場所作り”...立川シネマシティ 遠山武志
第12章 今、日本のエンタメ界に求められる作品とは...東京国際映画祭 矢田部吉彦
第13章 批判と向き合うための心得...無人島プロダクション 藤城里香
第14章 “ダイヤの原石”を見つけ出す方法...水曜日のカンパネラ 福永泰朋(Dir.F)

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