『けものフレンズ』はなぜアニメファンの心を掴むことができたのか?

視聴者と作り手の信頼感が日に日に高まっていった

 物語が進行していき、徐々に世界の謎が明らかになっていくに従い、Twitterやニコニコ動画では「たつき監督を信じろ」というフレーズが多く使われるようになった。

 人類の絶滅の可能性など、様々な不穏な要素を交えて進行していく物語に、鬱展開はイヤだ、このほのぼのした優しい世界を守ってほしいという気持ちをストレートに表現したフレーズだ。

 「信じろ」という言葉どおり、視聴者が作り手を信頼しようとしているわけだが、この信頼ということに関しては、作り手もまた視聴者を信頼していたことが伺える。

 福原慶匡プロデューサーはインタビューでこう語っている。

「『けものフレンズ』を観てくれているお客さんは、本当に頭が良いですよね。僕ら製作委員会の人間よりも、よっぽどしっかりした目で観てくれていると思います(笑)。それに、たつきくんも非常にファンを信頼した作り方をしているんですよね。例えば、伏線的なものを仕込む時も、誰もが気づくくらい簡単では面白く無いけれど、難しすぎると誰にも気づかれないわけで。たいていの人は、気づかれないのが怖いから、つい分かりやすくしてしまうんです。でも、たつき君は、一流料亭の料理人が、舌の肥えたお客さんなら塩や出汁だけでも美味しさを分かってくれると信じているみたいに、「ちゃんと分かるお客さんがいるから大丈夫」と信じていられるんです。」(出典:おわり(泣)「けものフレンズ」福原P絶賛「たつき君、本当にすごいな!」 - エキレビ!

 こうした視聴者を信頼する姿勢がなければ、あのような謎を散りばめた作劇はできなかっただろう。

 作り手と受け手の信頼は、SNSが普及した“共感の時代”にヒット作を生み出すには重要な要素となってきた。『この世界の片隅に』の片渕須直監督は、資金集めのクラウドファンドの時も、公開が始まった後も、観客とのコミュニケーションを欠かさなかった。『君の名は。』の新海誠監督も『ほしのこえ』のデビュー時から全国の劇場でファンに感謝を伝え続けてきた人だ。

 『けものフレンズ』は作り手とファンが繋がれるような特別な仕掛けはしていないが、放送期間中、作り手と受け手の間に強固な信頼関係が育っていくのを実感させられた。それが「たつき監督を信じろ」というスローガンとして現れたのだろう。

 ファンと制作者の間に信頼が生まれる過程は、作品内容とともに見ていて大変心地いいものであった。最終話も、ファンの期待に応えるかのようにバッドエンドにならず、世界の広がりを提示させつつ、かばんちゃんの成長を見せてくれて、最後までキャラクターたちが生き生きとしていた。

 かばんちゃんとサーバルちゃんをはじめ、フレンズたちの絆も感動的だったが、作り手と受けての幸福な信頼関係もまた筆者には感動的だった。アニメ制作者もファンも、人間のことももっと信頼したくなる、素敵な作品だった。

■杉本穂高
神奈川県厚木市のミニシアター「アミューあつぎ映画.comシネマ」の元支配人。ブログ:「Film Goes With Net」書いてます。他ハフィントン・ポストなどでも映画評を執筆中。

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