パク・チャヌク『お嬢さん』は女性こそ鑑賞できる映画? 過激なラブシーンの意味を考察
『お嬢さん』における自由への旅ーー女性同士のラブシーンの意味
『お嬢さん』の世界では、女性が見られる存在、あるいは男性同士のあいだで交換される存在でしかなく、女性の性も、男性を喜ばせる以外の意味をもっていない。また性行為は、強制的異性愛に伴って、男性器の挿入という形しかありえない(叔父の部屋の入り口にある蛇の彫刻も男根の象徴だろう)。藤原伯爵によって発せられる「女というものは、力ずくの関係で極上の快楽を感じます」という言葉も、それを如実に語っていると思われる。
このような世界では、女性同士の絆が自由へ導く唯一の道と言えるのではないだろうか。男性支配社会において男性たちは、男性の権力を保つべく、男同士の絆をゆるぎないものにするために、女性を交換される物として扱うのだ。しかし、『お嬢さん』では女同士の絆が男性支配制度を脅かし、その絆を成立させることで、秀子とスッキが拘束から逃れるようになる。本作におけるラブシーンも、強制的異性愛に反する性行為として、男性支配社会から逸脱する手段として機能しているのだろう。
女性こそ鑑賞できる映画
『お嬢さん』における女性同士のセックスシーンが話題となっているが、本作における女性の“性”の意味を理解せず、無意識的に「男性のために作られたシーン」として観ている人が少なからずいる。「女性観客でも鑑賞できる」という発言は、まさにその偏見を表しているのではないだろうか。『お嬢さん』は、男性の欲望を満たす映画ではなく、女性を拘束する制度からの逸脱を描く映画なのだ。そういう意味で『お嬢さん』は、「女性観客でも鑑賞できる」ではなく、「女性こそ鑑賞できる」というべき作品ではないだろうか。
■グアリーニ・ レティツィア
南イタリアのバジリカータ州出身で、2011年から日本に滞在。ナポリ東洋大学院で日本文化を勉強してから日本の大学院に入学。現在、博士後期課程で女性作家を中心に日本現代文学を研究しながら、ライターとして活躍中。
■公開情報
『お嬢さん』
公開中
監督:パク・チャヌク
原作:サラ・ウォーターズ「荊の城」(創元推理文庫)
キャスト:キム・テリ、キム・ミニ、ハ・ジョンウ、チョ・ジヌン
配給:ファントム・フィルム
2016年/韓国/145分/シネマスコープ/5.1ch/R-18指定
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