『スプリング、ハズ、カム』公開に寄せて

E-girls・石井杏奈が語る、女優とパフォーマーの両立 「どちらも挑戦するたびに発見と勉強がある」

「途中から璃子として楽しんでいました」

 

――共演された柳家喬太郎さんとは、距離を縮めるために毎回、稽古前に15分のキャッチボールをしていたとか。

石井:はい、そうなんです(笑)。最初は「ありがとう」とか言葉をかけながら始めて、徐々に監督が「ふたりとも大学生っていう設定で口説きながらボールを投げてみて」っていうムチャ振りもあったんですけど、すごくリラックスできました。最初は緊張気味でしたけど、すっかり喬太郎さんがいると安心するみたいな感じになって、即興でお芝居をしたり、ジェンガをしたり。楽しかったですね。お父さんと過ごしているシーンは、いつも素でいられました。本番も、セリフありきの撮影ではあるんですけど、アドリブもいっぱいで。電車に乗ってるところや、商店街を歩いているところ、買い物や、部屋で「ここがベッド……」と家具の配置を話しているシーンも、みんなアドリブなんです。

 

――自然な演技ばかりなのは、素が出せていたからなんですね。

石井:本当にそうだと思います。みなさんがそうしてくださったというか……。私、人見知りなところがあるんですけど、お芝居の仕事を通じて、少しずつスタッフさんとは話せるようになってきたんです。でも、まだ共演者の方だと自分から話しかけることができなくて。ましてや、今回は大先輩ばかりの現場。どうしようって思っていたときに、伯母さん役の朴璐美さんとか、みなさんのほうからたくさん話しかけてくださったんです。肩をや腕を組んで引き寄せてくれて「わー、強い女性だー」ってなりました(笑)。本当に、この作品は素のやりとりを撮っていただいたという印象です。

 

――もう、璃子と一体化していた感じですか?

石井:はい、あのときは璃子でした(笑)。散歩中、エキストラ役に抜擢されるシーンがあったんですけど、そのときも璃子として楽しんでいましたね。演技している上に、さらに演じるっていう感覚が、なんだか面白くて。お父さんと「え、え?」とか言いながら、オーバーに手振りをして(笑)。きっと地方から東京に出てきて、芸能人に会ったり、撮影に急に参加してほしいって声をかけられたりしたら、「東京ってこんな街なのか」ってテンション上がっちゃうだろうなとか、本当に家族できていたらどうしていたかなとか、いろいろ考えながらサイレント演技を楽しみました。

――璃子と石井さんの大きな違いは、広島弁だったのでは?

石井:そうなんです、とっても難しかったですね。広島弁って「じゃけぇ」とか「やけん」とか、印象的な語尾があってカワイイなって思っていたんですけど、それがいつ使うものなのかもわからなくて苦戦しました。広島の方が「見てられない」っていう映画にはしたくなかったので、方言を教えてくださる方にセリフを録音させてもらって、ずっと聞いていました。何回も口に出して言ってみて、抑揚の付け方をつかめたかなと思ったら、現場で方言指導の方に聞いてもらって……っていうのを、繰り返して撮影を進めていきました。アドリブも自然と広島弁になるくらい練習をしたのですが、広島の方に見ていただくのは正直「大丈夫かな」ってドキドキします。

 

――石井さんは、撮影中にモニターを見ない主義だとお聞きしましたが、本作でもそのスタイル?

石井:はい。もう監督のOKを信じました。以前、お仕事をご一緒させていただいた助監督さんから「モニターを見ちゃうと自分をよく見せようとするほうに意識がいって、お芝居として伝わらなくなっちゃう」と言われたことがあったんです。たしかにそうだなと思って、それからモニターはチェックしないようにしています。もちろん完成した作品を見たときに「もっとこうした方がよかったな」って思うことはあるんですけど、それが今の自分の実力なんだって思うようにしているんです。

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