ブラッド・ピット主演『マリアンヌ』は、名画『カサブランカ』の美しい“偽物”だ

 

 世の中に「真実の愛」が存在するなら、それは見返りを求めない献身のことだろう。『カサブランカ』で、ハンフリー・ボガート演じる男が、愛する女の本心が分からなくても犠牲になろうとするように、マックスも、マリアンヌの本当の気持ちを確かめられないまま、やはり破滅へと向かおうとする。「愛する女性が本当に自分を愛してくれているのか」。本作は、『カサブランカ』同様、その疑惑を超えたところに行き着くのだ。

 本作は、このように『カサブランカ』のシーンを引用しながらも、奇跡が起こる手前で失速していく。ピアノは軽快に鳴り出さないし、「ラ・マルセイエーズ」を弾いたという、『カサブランカ』によく似たエピソードは伝説として語られるのみである。飛行機のエンジンすらスムーズに回転してくれない。それは本作が『カサブランカ』の美しい「偽物」であることに、作り手が自覚的であるからだろう。だが、本作はそれでも、「ささやかな奇跡」を示すラストシーンによって、本物の『カサブランカ』のラストシーンと同じように、生きる希望を我々に与えてくれる。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。

■公開情報
『マリアンヌ』
TOHOシネマズ 六本木ヒルズほか全国公開中
監督:ロバート・ゼメキス
出演:ブラッド・ピット、マリオン・コティヤール、リジー・キャプラン、マシュー・グード
配給:東和ピクチャーズ
(c)2016 Paramount Pictures. All Rights Reserved.
公式サイト:marianne-movie.jp

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