『カードキャプターさくら』が男性ファンも獲得したワケ 誕生から20年、劇場版リバイバル上映に寄せて
さくらの「誰に対しても優しいまなざし」
本作の劇場版がリバイバル上映されているが、改めて見返してみると、エブリデイ・マジック的な要素を持ちながら、現在の深夜アニメの魔法少女に萌芽となるような要素が多いことに気付かされる。さくらの口癖「ほえ〜」や「はにゃーん」などの萌え要素は言うにおよばず、劇場版では強調されないが、さくらと親友・知世の百合っぽい関係、さくらの兄とその親友、月城雪兎とのBLっぽい関係などなど、いくつものポイントを挙げることができる。さくらが片思いをする、香港からやってきた男の子の小狼(シャオラン)は、年上の男性・雪兎に憧れを抱いたりもする。
こうした人間関係の描写は現在の深夜アニメでは珍しいものではない。少女漫画でありながら、こうした描写をした理由を原作者のCLAMPは「マイノリティに優しい作品にしよう」と考えたからだとインタビューで語っている。(参照:カードキャプターさくら メモリアルブック)
「『さくら』に関しては、この表現が正しいかどうかわからないんですが、「マイノリティに対して優しい作品にしよう。」ということを最初から話していたんです。知世ちゃんのさくらへの想いにしても、見方によっては<アブナイ>という言い方をされてしまうような想いですよね。雪兎と桃矢に関しても、読んだ方が友情と取ってくれてもいいし、それ以上の感情と取ってくださってもいい」
こうした多様な価値観と「普通に」接する主人公が活躍する物語が、小学生に広く受け入れられたことは画期的なことではなかっただろうか。こうした価値観は、深夜アニメや漫画の萌え表現を多様にし、そこから『なのは』や『まどマギ』のような傑作が誕生した。そしてもう一方では、今の社会を生きる女性たち、男性たちに、世界には多様な生き方や恋愛の形があることを教えてくれたのではないだろうか。
この20年で、LGBTなどのマイノリティに対する社会の価値観は大きく変わっただろう。しかし、まだまだ充分ではないかもしれない。昨年からは『カードキャプターさくら』の連載が再開され、2018年にはテレビアニメの放送も始まる。1998年当時小学生だった人が、今では家庭を持っていたりもするのだろう。親子そろって放送を楽しむ家庭もあるかもしれない。『カードキャプターさくら』の「誰に対しても優しい眼差し」は、そうやって親から子へと受け継がれていくのかもしれない。
■杉本穂高
神奈川県厚木市のミニシアター「アミューあつぎ映画.comシネマ」の元支配人。ブログ:「Film Goes With Net」書いてます。他ハフィントン・ポストなどでも映画評を執筆中。
■公開情報
『劇場版 カードキャプターさくら』
新宿ピカデリーほかにて公開中
キャスト:丹下桜、岩男潤子、久川綾、関智一、緒方恵美、田中秀幸、くまいもとこ、ゆかな、林原めぐみ他
原作:CLAMP(講談社『なかよし』連載)
監督:浅香守生
キャラクターデザイン:高橋久美子
脚本:大川七瀬
ゲストキャラクターデザイン原案&コスチュームデザイン:CLAMP
美術監督:針生勝文
撮影監督:白井久男
音楽:根岸貴幸
音響監督:三間雅文
制作:マッドハウス
(c)CLAMP・ST・講談社/バンダイビジュアル・マッドハウス
公式サイト:http://ccsakura-official.com/revival/