ディズニー、なぜ過去の名作を実写リメイク? 『ピートと秘密の友達』が描き直す“人情”の物語

ディズニー、なぜ過去の名作を実写リメイク?

 そして、このような古い感覚の話を、いまあえてやっているというのは、狙って行わなければあり得ないはずである。おそらく彼は、「人情」を根源的なところから描き直すという試みによって、 世の中や映画界の流れとは一部逆行しながら、「古くさい」と考えられているもの全てが「つまらない」ものではないんだぞと主張しているように感じられるのである。そのことを証明するのは、本作の物語が、ヨーロッパの伝承である「ドラゴン」を、やはり源流からとらえ直しているという事実である。

 山や森の中に不用意に散歩に出かけ、突然、「入ってはいけない場所に踏み込んでしまった」という感覚に襲われることはないだろうか。水木しげるも同様の体験をして、その感覚を具現化したのが「妖怪」だということを語っている。山や森の中には、神であれ魔であれ妖怪であれ、「何か」がいるのではないか。そういった感覚が具体化されたもののひとつが、西洋のドラゴンである。

 本作でドラゴンを目撃した人物が思わず「悪魔だ!!」と叫ぶように、人々の信仰が民間伝承からはなれ画一化されていくに従い、ドラゴンはやがて神話的な英雄譚においても退治されるべき邪悪なものとなっていった。ディズニーの『眠れる森の美女』でも、マレフィセントは邪悪なドラゴンに変身し、王子に襲いかかった。

 それと同時に、現実の生活の中で、人間は木を切り倒し山を征服してきた。ヨーロッパからアメリカにやって来た、「フロンティア・スピリット」にあふれる入植者たちは、原生林を切り倒し、アメリカバイソンを狩り尽くした。自然はドラゴンと同じく、人間に支配されるべきものとして考えられてきたのである。本作は、「自然」と「ドラゴン」に共通性を見いだし、征服すべき悪魔と見なされる前の、純粋に「畏怖すべき」ものとしてこれらを新しく蘇らせている。

 ドラゴンと少年の深い愛情を通して、人と人との絆を描くという意味において、ファミリー映画として最適といえる本作。しかし、その感動を裏で支えているのは、人生と社会についての深い理解をベースとし、古い概念の良い部分のみを取り出して結晶化させていくという、根源的かつ急進的な試みである。それがこの作品を、安易な「感動作」とは区別するべきものにしていると考えられるのである。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

『ピートと秘密の友達』予告編

■公開情報
『ピートと秘密の友達』
12月23日(金・祝)全国ロードショー
監督:デヴィッド・ロウリー
製作:ジム・ウィティカー
出演:ブライス・ダラス・ハワード、ロバート・レッドフォード、オークス・フェグリー
原題:Pete's Dragon
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
(c)2016 Disney
公式サイト:Disney.jp/Pete

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