“2本立て上映”の成否を分けるものは? 名画座・早稲田松竹番組担当が語るコンセプトの作り方
繋がりや発見が生まれていく映画の面白さを
−−取り上げたい作品が取り上げられなかったケースもあるかと。
上田:ある程度、上映することができる作品を事前に把握していますが、作品によって権利関係などはバラバラなので、転がしようによってはいくらでも転がせるように組み合わせています。例えば、12月31日から上映している「小津安二郎と山中貞雄」ですが、希望の小津作品をピックアップできなければ、山中貞雄のみの2本立てに切り替えて考えてみるとか。1月21日からの「マーティン・スコセッシと遠藤周作」も、実は篠田正浩監督の『沈黙 SILENCE』が上映できるかどうか分からない状態だったんです。でも、『沈黙-サイレンス-』の公開日にあわせてスコセッシの特集をやることは事前に決めていました。スコセッシの上映できる作品は大体『ギャング・オブ・ニューヨーク』以降しか残っていないということは把握していたのですが、幸い『タクシードライバー』も上映できることが決まり、この2本だけでも充分魅力的かとは思ったんです。でも、流石に2本だけで「スコセッシ公開記念」というのはちょっと物足りない。それならば、新作の原作である遠藤周作を掛け合わせてみたら面白いかなと。『沈黙 SILENCE』、『海と毒薬』どちらも名作で、近年でも名画座でかかってはいたんですが、お客さんが殺到するタイプの作品ではない。でも、このタイミングでなら観たいというお客さんはたくさんいると思ったんです。
−−私もこの4作品はすでに観ていますが、こういったプログラムがあると、『沈黙−サイレンス−』と合わせて改めて観たくなります。
上田:映画の面白いところは、過去に観た映画も他の作品と一緒に観たり、自身の年齢や月日によって、過去に観たときとイメージがまったく変わっていたり、同じ作品でも違った面白さが見出せるところにあると思います。お客さんにとって、「“いま”だからこそ観たい」、そういった作品を常に探していますね。
−−組み合わせがうまくいかず、見送った作品などもあるんですか。
上田:たくさんありますよ。1本だけでもすごくお客さんが入ると分かっているなら、何でもいいから足して2本立てにすればいいと思われるんですが、そうやって組んだプログラムはお客さんに伝わってしまいます。たくさんの映画の中から2本を組み合わせ、そこにコンセプトを付け加えないといけない。非常に難しいときもありますが、パズルのような面白さもあり、何よりもお客さんが喜んでくれることが一番うれしいですね。
−−学生時代、一番多くの時間を過ごした映画館が早稲田松竹でした。名画座で映画を観ることができる時間はとても幸せだなと感じます。
上田:映画を観て、繋がりや発見が生まれていくのは面白いですよね。今まで話してきたように2本立てのコンセプトを明確にうちだしてはいますが、本来であればそれは自分で見つけた方が面白い気もするんです。映画の繋がりが見えるともっと知りたくなり、他の作品はどうなんだろうと、どんどん広がっていきますよね。一歩引いて考えると、2本立て上映って変な文化じゃないですか。およそ4時間、場合によっては5時間以上、同じ空間でスクリーンを観続けるわけですから。かなり贅沢な時間の使い方ですよね。お客さんにとって、一日のイベントとなるわけですから、責任重大であり大変やりがいのある仕事だなと常々感じています。
(取材・文=石井達也)
■上田真之
早稲田松竹番組担当、IndieTokyoイベント部、ニコニコフィルム。『祖谷物語~おくのひと~』脚本・制作。短編『携帯電話はつながらない』監督。2015年春から、『恋愛のディスクール・断章』ワークショップ開催。
■早稲田松竹
上映スケジュール
12月31日~1月6日
「小津安二郎と山中貞雄」
『晩春』『河内山宗俊』/『父ありき』『丹下左膳餘話 百万兩の壺』
1月7日~1月13日
「早稲田松竹クラシックスvol.119 ヴィム・ヴェンダース監督特集」
『パリ、テキサス』『ベルリン・天使の詩』
1月14日~1月20日
「アルゼンチン・タンゴ×フラメンコ・ギター 情熱と革命のアーティストたち」『ラスト・タンゴ』『パコ・デ・ルシア 灼熱のギタリスト』
1月21日~1月27日
「『沈黙 -サイレンス-』公開記念 マーティン・スコセッシと遠藤周作」
『タクシードライバー』『ギャング・オブ・ニューヨーク』/『沈黙 SILENCE』(1971)『海と毒薬』
1月28日~2月3日
「イーストウッドとスコリモフスキ 巨匠たちが描く“運命の時”」
『ハドソン川の奇跡』『イレブン・ミニッツ』
公式サイト:http://wasedashochiku.co.jp/