山田涼介『カインとアベル』“鬱展開”から目が離せない! ショッキングなキャラ変で物語は佳境へ

 いよいよ佳境を迎えつつある月9ドラマ『カインとアベル』(フジテレビ系)が、急速な“鬱展開”となり、視聴者の注目を集めている。12月5日放送の「忍び寄る悪魔の誘い 一瞬で奪われる幸せ」と題された第8話は、その不穏なタイトル通り、登場人物たちがそれぞれ不幸に陥っていく様を緊張感あふれるタッチで描いていた。

  同作は、親の愛を巡る兄弟間の確執を描いた旧約聖書の「カインとアベル」をモチーフにしたドラマで、山田涼介演じる弟・高田優と桐谷健太演じる兄・高田隆一が、高嶋政伸演じる父・高田貴行が率いる大手不動産会社「高田総合地所株式会社」を舞台に、複雑な人間模様を描き出す物語。前半は仕事ドラマの色が濃く、優の成長物語としてほのかなロマンスの香りとともに楽しむことができていたが、中盤から優と隆一の立場が逆転するにしたがい、徐々に家族間の確執へと焦点が移っていった。第8話では、嫉妬に駆られた隆一が優の取締役室などに盗聴器を仕掛け、優はそのことを取締役会で告発、隆一を退任に追い込んだ。

 急激な展開にも驚いたが、主要人物たちのキャラクターの変化も特筆すべきものがあった。まずはなんといっても桐谷健太演じる隆一。桐谷は『ROOKIES』(08年)の平塚平役で注目を集め、その後も映画『アウトレイジ ビヨンド』(12年)や『GONIN サーガ』(15年)などで、純粋な、しかし脛に傷持つ男を哀愁の演技で表現してきた。記者会見などで、「落ちていく人間を演じるのは難しい」と語っていた桐谷だが、真面目ゆえに狂気に陥る役柄は、もっとも実力を発揮できるところではないだろうか。盗聴器を仕掛けるときの後ろめたい表情、優の告発に激昂する表情、そして全てを失って慟哭する表情には、まさに桐谷だからこその説得力が満ちていた。

 一方の優も、前半の危なげな新人社員から一転、取締役となったことで冷酷なビジネスマンとしての表情を見せるようになった。会社員として未熟だった頃の優は、いかにも若者らしい失敗ばかりで、一生懸命やっているけれど効率が悪く、見ていてつい説教をしたくなった視聴者も多かったのではないだろうか。一見すると、山田がもし職場にいたらこんな感じなのかな、と思わしめるほど自然で、本人と役の間にはそれほどのギャップがないようにも思えた。しかし、今回の豹変ぶりを見る限り、それもすべて演技だったと見て良いだろう。たとえ兄弟でも邪魔者とあらば消す、その冷酷な意思を感じさせる眼差しは、映画『グラスホッパー』(15年)で演じた殺し屋・蝉を彷彿とさせるものだった。優の大きな変化を表現できたのは、山田の演技力の賜物である。

 ヒロイン役の矢作梓を演じる倉科カナも、渾身の演技を見せた。隆一の退任を知り、優のことを涙ながらに責め立てる演技には、その背景に複雑な心理を感じさせる奥深いものだった。その後の優の告白に対する、冷たい目線ーー幾度かの恋の終わりを見てきた者なら、その鋭さに心が痛みさえしただろう。できることなら今後の人生、女性を怒らせてかような目線を浴びることなく、静かに過ごしていきたいものである。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる