『SCOOP!』『何者』『溺れるナイフ』ーー話題作の陰にこの人あり 伊賀大介に訊く、日本映画の「衣装」の現在

「『何者』は、“あえてダサい”ものを狙ったパターン」

 

——続いて、公開が『SCOOP!』の翌週となった『何者』。これも伊賀さんが衣装を担当した作品でした。

伊賀:映画での自分の仕事にはいくつかパターンがあって、これは“あえてダサい”ものを狙ったパターンですね。生々しすぎて、気持ち悪いというか。三浦大輔監督とはこれが初めてだったんですけど、ずっとポツドール(三浦大輔が主宰する劇団)の舞台は大好きで見ていて。三浦さんがやるんだったら、こういうことだろうなって。観客に『あなたの話ですよ』って突きつけるあの感じを、衣装でも表現したいと思って。

——一般的な日本映画の青春モノや恋愛モノと比べるとその違いが歴然としていますが、大学生の登場人物たちの衣装のこなれ感がハンパなかったです。

伊賀:『何者』では、BOOK OFFの古着がいっぱい置いてあるようなところに行って、大学生が着古したような感じの服を集めて、それぞれのキャラクターに合わせて着てもらったんです。佐藤健くんとか、もちろん普段はかっこよくて、私服とか本当に洒落てるんですけど、『バクマン。』で一緒にやった時からそうでしたけど、役作りのアプローチを自然にやってくれる方で。『バクマン。』の時は『この役、童貞に見えないとマズイから』って、ルミネの6階、トータル18.000円みたいな服を着てもらって(笑)。今回もそれの延長線上だったんですけど、佐藤健くんから、原作の朝井リョウさんがよくフレッドペリーのポロシャツを着てるという話を聞き付けて。

——あ、知ってます。そうか、そこからなんだ。

伊賀:佐藤健くんの演じる主人公の服装として、『それ、いい!』と思って。一つのブランドに執着するのって、一見小綺麗に見えるけど、逆にダサいじゃないですか。

——朝井さんの立場がないけど(笑)、そうですね。

伊賀:いや、朝井さんのことではまったくないんですけど(笑)。お馴染みの店員さんがいて、その人がすすめるものばかり買ってるみたいな。そういう人ってよくいるけど、その受動的な態度って全然オシャレじゃないと思うんですよ。それってすごく、『何者』の主人公っぽいんじゃないかと思って、佐藤健くんには基本フレッドペリーのポロシャツを着てもらって。そこも、数年前、まだ演劇を真剣にやってる時は、本当に服に興味を割く時間なんてないみたいな感じで、学内でもジャージとかを着てるんですよ。でも、就職活動をするようになると、普段はフレッドペリーのポロシャツの象徴されるような、誰からもナメられないし小綺麗なんだけど、実はすごく安易な格好を、まるで自分を守る鎧のように着るようになる。そこに、何かを一つに決めちゃってる人のおもしろくなさが出るといいなって。

——なるほど。すごくわかります(笑)。

伊賀:その対比として菅田将暉くんの役は、まったく空気を読まないバンドマンみたいな自由な感じの服にして。ただバンドをやってるだけじゃなくて、家着ではフットサルのジャージとかを着てもらって、『あ、そっちでの友達関係もあるんだな』って観客に思ってもらいたかったんです。音楽もスポーツも、ナチュラルになんでもできるやつっているじゃないですか。小学校の頃に一番モテたやつみたいな、そういうイメージですね。

 

——『SCOOP!』に続いて『何者』にも二階堂ふみさんが出てますが、今回は?

伊賀:前にスペインに行った時に思ったんですけど、あっちの女の子って、20歳くらいなのにやたら大人っぽくて身体のラインが出る服をよく着てるんですよ。だから、そういう方向のファストファッションにしようかなって。

——ZARA的な感じですね(笑)。

伊賀:そうそう(笑)。ちょっと胸元が見ていたり。あと、ハリウッドセレブの私服みたいなイメージのTシャツ地のロングスカートとか(笑)。自分に自信がある感じ。

——おもしろい(笑)。有村架純さんの役は?

伊賀:有村さんが一番難しかったですね。有村さんって、ご本人にもあまりオシャレすぎる格好はしてほしくないっていうこちらの勝手なイメージがあるじゃないですか。

——はい(笑)。

伊賀:でも、ディズニーランドとかに行くと、有村さんに代表されるようなイメージの女の子の格好が、圧倒的なマジョリティだってことを痛感するんですよ。市川のイオンで買った服みたいな。もちろん有村さん自身がそうだってわけじゃないんですけど、『何者』の中では、そういう市川のイオン的な服を着てもらって。とにかく単品が安い、『化繊!』って感じの。お金はかかってないんだけど、実はそれが一番モテるって感じの。

——ルミネの6階とか市川のイオンとか、すごくイメージが具体的ですよね。普通、僕ら男が女の子のファッションの話をする時、CanCamっぽいとか、ViViっぽいとか、特定のファッション誌のイメージで話をしたりするじゃないですか。でも、伊賀さんの発想はそういうのとは違うんですね。

伊賀:ファッション誌の世界って、今すごくクロスオーバーしてるんですよ。モデルの子が自分でInstagramやブログで私服を公開するようになってから、雑誌のモデルとしてのパブリックなイメージと、個人で発信しているイメージが、結構違ったりして。昔みたいに、CanCam=エビちゃんみたいな記号としての共有がしにくくなってるんですよね。

——なるほどねぇ。

伊賀:あと、今回の有村さんの役だと、絶対に生肌を見せないという。足は絶対にタイツとか。

——あぁ、そこにも二階堂さんの役との対比があるんですね。

伊賀:そうですね。そういう対比はいつも気にします。

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