『シン・ゴジラ』『夏目漱石の妻』で快進撃! 長谷川博己が2016年に飛躍した理由
9月24日にスタートしたNHK土曜ドラマ『夏目漱石の妻』が好調だ。初回の視聴率は10.1%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)。同じ週に放送された月9『好きな人がいること』(フジテレビ)や『せいせいするほど、愛してる』(TBS)の最終回をも上回り、ジャニーズ総出演のスペシャルドラマ『必殺仕事人2016』(テレビ朝日)をも超えた。このドラマで文豪・夏目漱石を演じる長谷川博己にとっては、『シン・ゴジラ』公開後の第1作となったが、ついに“ハセヒロ”人気が数字にも現われたのだろうか? どんな役柄にも染まる透明な雰囲気とリアルな人物に見せることのこだわり、そして時にはやりすぎにも見える思い切りの良い演技ゆえに、『シン・ゴジラ』の庵野秀明監督を始め、一線のクリエイターから信頼されるハセヒロ。ここでは、現在、俳優としてのりにのっているハセヒロの今年の快進撃を、その演技パターンと共に振り返ってみたい。
2016年、ハセヒロの出演映画で最初に公開されたのは『セーラー服と機関銃 -卒業-』。ここでは橋本環奈が演じるヒロインと訳ありの暴力団員で、敵対する組にいながら彼女を守ることになる月永役を演じた。前作『セーラー服と機関銃』(相米慎二監督)なら渡瀬恒彦に当たるポジションを、怜悧な目つきと凄みのある口調で熱演。映画のビジョンとしては工夫のない単なる焼き直しにも、安易なアイドル映画にも見えた同作だが、ハセヒロのヤクザ演技だけは見る価値がある。意外にもこれが初めてのヤクザ役だったというが、“ならず者”という路線だと考えれば、既に『MOZU』の“チャオ”東(ひがし)などで演じてきたキャラクター。その東の二番煎じのように見えて実はとんでもない設定だった『進撃の巨人』のシキシマなどもこの路線に含まれるかもしれない。
次に公開されたのが、小池真理子の小説を映画化した『二重生活』。ここでは門脇麦演じるヒロインに理由もなく尾行される編集者・石坂役。石坂は住宅街で妻子と仲睦まじく暮らし良き夫を装いながら、仕事関係の女性と不倫をしていた。一見、優等生的に見えて実は肉食系の危険な男という路線は『鈴木先生』や『家政婦のミタ』で演じた役に近い。出世作『セカンドバージン』は、ハセヒロのこうした魅力がぴたりとハマったからこそ、ブレイクのきっかけになったのだろう。実は、この作品では「ドキュメンタリータッチで撮るなら、僕は原作のキャラクターより若いし、家庭を持っていないから、それを演技で“作る”ことは違うのでは」といったんは出演を断ったというが、いかにもリアリティにこだわる彼らしいエピソードだ。
そして、『シン・ゴジラ』の主人公、官房副長官の矢口蘭堂役は、長谷川博己の代表作になるだろう。劇場公開されるまでは、ハセヒロが主演ということすらあまり認知されていなかったが、公開されるやいなや、映画の高評価もあいまってその演技は絶賛された。政府の前例主義、官僚におまかせの危機対応などにNOを言い、リアリストとしてゴジラに立ち向かう矢口。しかも、自分の身を挺してでもという熱い情熱をも持ち合わせる英雄的存在。アクション作の『MOZU』や『進撃の巨人』では悪役ポジションだったハセヒロが、初めて“みんなのヒーロー”になった決定的作品となった。