監督と助監督、それぞれの仕事 菊地健雄インタビュー「映画人である前に、社会人として」

誰が観ても面白い映画を

−−現在の日本映画界は大作とインディペンデントの二極化が進み、映画製作の現場は厳しいものもあるかと思います。映画を仕事にすることを菊地監督はどう考えていらっしゃいますか。

菊地:確かに映画製作の現状は厳しい部分もあります。今の日本の映画界って、失敗することが許されない雰囲気がすごくあると思うんです。失敗したらもう撮れなくなるんじゃないかという危機感がどの監督にもある。でも、僕が助監督として付いてきた監督たちを見ると、撮れる人は“失敗”しても、しぶとく撮ってるんですよね。野球のバッターと一緒で、映画監督にも10割バッターはいないと思うんです。最初からその気持ちでいるというわけではありませんが、失敗してもまたやり直せばいいと腹を括ってるところはありますね。映画を仕事にすることは、ある側面から見たらこの上もなく大変だと言えるかもしれませんが、僕個人としてはやはり非常に面白いですし、やりがいがありますね。

−−監督としての仕事を菊地監督はどのようにとらえていらっしゃいますか。

菊地:監督って実は具体的な仕事が見えづらいですよね。多くの場合、映像を撮るのはキャメラマンで、音を録るのは録音部で、演じてくれるのは役者さんで、撮影した映像は編集部さんが繋いでくれる。監督は単に“選択”をしてまとめているにしか過ぎないような気がします。要するに「よーい、スタート」と「カット」の声を掛けてOKかNGか判断するというか。でも、スタッフが一緒でも監督と脚本が違えば映画のテイストは大きく異なる。例えば、瀬田なつきさんと僕のスタッフはほとんど一緒なんですが、完成した映画はまったく似ているところがないですからね(笑)。当然といえば当然なんですが、それが映画の面白いところでもあるなあと思います。

−−これから菊地監督が目ざす映画はどんな映画でしょうか。

菊地:僕自身が映画ファンの一人なので、予算の大小に関わらず誰が観ても面白い映画を作りたいなと思っています。色々なジャンルにも挑戦していきたいですね。メジャーなもの、マイナーなもの、そのどちらであっても、観た人がいろんなことを語ることができる映画が増えていけばいい。例えば、最近だと『シン・ゴジラ』は、作り手も観客も色々と語れる、まさにそういう作品ですけど、意外とありそうでないんですよね。そういった映画を映画人は考えなくてはいけないですし、僕も作っていきたいと思っています。どういう想いをもってその映画を作ったかということよりも、どう観客が受け止めてくれるかということが一番大事なことなのだと思います。

菊地健雄監督作品『マチビト 神楽坂とお酒のハナシ』ネット配信中

※Sunbornが推し進めるマチビトプロジェクトの一環として、同社とTOY'S FACTORYの共同製作作品として制作が行われた。菊地凛子扮する編集者の悦子が、川瀬陽太扮するカメラマン池田を呼び出し、神楽坂の街とお酒の関係を取材するというモキュメンタリー的作品。菊地健雄監督がメガホンをとり、『ディアーディアー』『ディストラクション・ベイビーズ』の佐々木靖之が撮影を担当。

(取材・文=石井達也)

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