『ジャングル・ブック』の“作り物のジャングル”が示す、圧縮された社会モデル

『ジャングル・ブック』CGが描くもの

 人は、成長期に将来の理想を思い描く。モーグリにとってそれは、立派な狼の一員として認められることだった。しかし現実世界の多くの人間が壁にぶつかり挫折するのと同様、その望みは絶たれることになる。モーグリは道具を発明するなど、頭脳において頭角を現わそうとするが、そのような「人間らしさ」は、狼の世界では異端であり、捨てなければならない能力だと否定されてしまうのだ。その上で狼と同等の働きができるはずがない。現実はときに非情だ。無理なものは無理なのである。その厳しさをしっかり描く本作は、困難をひたすらな努力によって乗り越え理想を達成する姿を描き、「夢をあきらめるな」とアナウンスするような作品とは区別されるべきだろう。

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 それでは、夢破れ生きる指針を失った人は、その後の人生をどう生きて行けばいいのか。本作では、動物たちを助ける場面に象徴されるように、自分の個性や与えられた才能を最大限活かして「他者の役に立つ」というひとつの道を示している。象の子供を助けようとするモーグリを朝日が包み込む情景は、本作で最も情動的な美しさで輝いている。当初の理想からは離れていたとしても、他者に必要とされることで、人は自分の居場所を確保し生きがいを見つけることができる。このプロセスを達成していくモーグリの姿は、困難な現実にこれから立ち向かい、理想と現実のギャップに戸惑い挫折することになる多くの子供たちにとって、実際的な生き方の見本となるのではないだろうか。

 本作が圧倒的なリアリティを目指し表現する「作り物のジャングル」は、人間が成長する過程の重要な体験を描くための、圧縮されたひとつの社会モデルである。それを成立させるため注がれるあらゆるスタッフの膨大な手間は、ひとりの少年が生き方を見つける姿に説得力を与えることにつながっている。その作り手の熱意にも心を動かされるのである。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

■公開情報
『ジャングル・ブック』
全国公開中
監督:ジョン・ファヴロー
配給:ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン
原題:「The Jungle Book」
(c)2016 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.
公式サイト:http://www.disney.co.jp/movie/junglebook

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