森直人の『死霊のはらわた リターンズ』評:これはサム・ライミの「初期衝動 リターンズ」だ!

 そんな創意工夫に燃える映画小僧だったサム・ライミは、物の見事に出世した。しかし『スパイダーマン』三部作のあとにB級魂あふれる快作『スペル』(09年)をわざわざ撮ったように、彼は“あの頃”を忘れていない。やはり彼の心の故郷はいつまでも『死霊のはらわた』にあるのだ。

 

 実際、ライミは自身のホラー専門製作会社“ゴースト・ハウス・ピクチャーズ”(清水崇監督のハリウッド進出作『THE JUON/呪怨』を全米No.1ヒットさせた実績などがある)で2013年に『死霊のはらわた』をリメイクしている。ただしオリジナルの世界とは切れた別の物語であり、盟友ブルース・キャンベルはチラッとゲスト出演のみ。内容もいかにもメジャー化した凡庸なもので、熱心なファンを満足させる結果にはならなかった。

 その反省が強かったのか、まず『死霊のはらわた リターンズ』は製作クレジットが“ルネサンス・ピクチャーズ”なのだ。これはライミがキャンベルらと共に、無名時代に設立したインディペンデント映画の会社名。つまり『死霊のはらわた』オリジナル・チームの再結成。本気で原点回帰を志すべく、スーツのお偉いさんがTシャツに着替えて再びガレージ・バンドを組んだようなもんだ。

 

 もちろん年寄りのノスタルジーの域なんかではないのは、一目瞭然。ダメ熟年化したアッシュの加齢は当然ネタに盛り込みつつも、生首も内臓も何でもありのハードコアな残虐描写が手加減なしで炸裂し、そこに狂った脱力ギャグが挟み込まれる。とてもお茶の間対応とは思えぬ凄まじい血まみれエンタメはビギナーも感染させるはず。ライミは第1話のみ監督と共同脚本を手掛け、残りの回の監督と脚本は他のスタッフに任せているが、毎回“初期ライミ節”が取り憑いたタッチを堪能できるので筆者も痺れまくりだ。

 お話の展開は「なんじゃそりゃ!」級のエグすぎる予測不能が連発で、日常とは遠く離れた世界にトリップさせてくれる。各回30分枠のコンパクト・サイズ(初回のみ45分枠)でサクッと愉しめるのもいい。気がつけば全10話完走し、エンディングに流れるAC/DCの「バック・イン・ブラック」が聞こえてくる。シーズン2にも大期待! いずれは『キャプテン・スーパーマーケット』のエピソードが絡んでくる時も来るだろうか?

『死霊のはらわた リターンズ』予告編

■森直人(もり・なおと)
映画評論家、ライター。1971年和歌山生まれ。著書に『シネマ・ガレージ~廃墟のなかの子供たち~』(フィルムアート社)、編著に『21世紀/シネマX』『日本発 映画ゼロ世代』(フィルムアート社)『ゼロ年代+の映画』(河出書房新社)ほか。「朝日新聞」「キネマ旬報」「TV Bros.」「週刊文春」「メンズノンノ」「映画秘宝」などで定期的に執筆中。

■配信情報
『死霊のはらわた リターンズ』
6月24日(金)より独占配信 以降毎週金曜日1話ずつ配信予定(全10話)         
製作総指揮:サム・ライミ(EP1監督、脚本)、ロブ・タパート、ブルース・キャンベル、クレッグ・ディグレゴリオ(ショーランナー)
出演:ブルース・キャンベル、ルーシー・ローレス、レイ・サンティアゴ、ダナ・デロレンゾ、ジル・マリー・ジョーンズ ほか
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