成馬零一の直球ドラマ評論『ゆとりですがなにか』

『ゆとりですがなにか』が浮き彫りにする宮藤官九郎の人生観 人間の不安定さ描いた第八話

『ゆとりですがなにか』第八話より

 もちろん今までにも佐倉悦子が研修の終わった後で教師にはならないと言い出したり、山岸が突然会社を辞めようとしたりといった場面がゆとり世代の典型例として描かれることは何度もあった。そういった変わり身の早さが、坂間たちゆとり第一世代にもあったということだけかもしれないだが、それ以上に感じたのは恋人や仲間同士の間にどれだけ居心地のいい関係が出来上がったとしても、そんなものは長続きしないし簡単に変わってしまうという宮藤の中にあるドライな人間観だ。

 それは変わろうとしたまりぶにしても同様だ。真面目に働こうとしていたまりぶだったが、ぼったくりバーで大金を騙し取られた男が職人仲間の一人だったことから正体が気づかれてしまう。いやがらせをしてくる職人に対してカッとなって暴力を振るってしまうまりぶは、植木屋を放りだして夜の町をさまよう。そこで、後輩と出会い元の仕事に復帰するが、ぼったくりバーに客として潜入していた警察に逮捕されてしまう。

 一方、茜と仕事を辞めた坂間は坂間酒造の社長としてやっていこうと思うが、兄嫁のみどりに子どもができたことがわかり、北海道行きは白紙になる。

 まりぶが逮捕された後、各登場人物の姿が映し出され、感覚ピエロが歌う主題歌「拝啓、いつかの君へ」が流れる。そして最後に「あんたの正義に覚悟はあるのか?」というフレーズが、坂間たちの生き方に問いかけるかのように響き渡る。

 最終話まであと二話。ここにきて急展開した坂間たちの物語はどこに着地するのか。一寸先がどうなるのか全くわからない、この流動性の激しさこそ、クドカンドラマの真骨頂だと言えよう。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

■番組情報
日本テレビ系日曜ドラマ『ゆとりですがなにか』
毎週日曜 22:30スタート(第九話は6月12日放送)
出演:岡田将生 松坂桃李 柳楽優弥 安藤サクラ 吉田鋼太郎
脚本:宮藤官九郎
「ゆとりですがなにか」公式サイト
(C)日本テレビ

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