“半SF”映画としての『太陽』ーー演劇性重視のアプローチで描きわけた2つの世界

“半SF”映画としての『太陽』

20160114-taiyou-sub2-th.jpg

 

 また、2つの世界は映像的にも全く異なる。キュリオらが暮らす山間には、木造りの家々が並び、光は家々の電球ぐらいで、この地の「夜」はとても暗い。『アルファヴィル』でも「夜」のパリが舞台に選ばれたように、「夜」はSFに向いている。本作でも、「夜」の暗闇は効果的にフィクション性を強め、闇夜を往来する車やバイクの光を際立たせる。そして、広大な自然のロケーションを活かした広いサイズの長回しが、なにか巨大な舞台を観劇している感覚にさせる。一方、ノクスの生活する都市は、SFジャンル的にお決まりの未来都市的様相をもつ。白く整った研究所のような建物やブルジョワ的な家。中でも特筆すべきはプールだ。『アルファヴィル』では処刑場にされたプールだが、本作での美しい撮影はタルコフスキー『惑星ソラリス』の水のイメージをも喚起させる。こうしたジャンルの決まりを活用することで、ノクス側の描写は少ないながらもはっきりとしている。

 『太陽』は、このような2つの世界の差異がそのまま人間ドラマの厚みになるスケールの大きな作品だ。ここに、入江悠が磨き上げた確かな手腕が発揮されている。では最後に、本作における音楽はどうだろうか。『SR サイタマノラッパー』シリーズを監督した入江悠が、この点に対して意識していないはずがない。本作のテーマ曲ともいえる美しく切ない「モルダウ」が奏でられる時、あなたは何を感じるだろうか。

■嶋田 一
主に映画ライター。87年生まれ。好きな和製SFはやっぱり『ウルトラセブン』。

■公開情報
『太陽』
4月23日(土)より角川シネマ新宿ほかにて全国ロードショー
出演:神木隆之介、門脇麦、古川雄輝、水田航生、村上淳、中村優子、高橋和也、森口瑤子、綾田俊樹、鶴見辰吾、古舘寛治
監督:入江悠
脚本:入江悠、前川知大
原作:前川知大 戯曲「太陽」(第63回読売文学賞戯曲・シナリオ賞受賞)
企画・製作:アミューズ、KADOKAWA
配給:KADOKAWA
2016/日本/129分/5.1ch/ヨーロピアン・ビスタ/カラー/デジタル
(c)2015「太陽」製作委員会
公式サイト:eiga-taiyo.jp

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「ニュース」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる