柳沢翔監督の初長編作『星ガ丘ワンダーランド』公開記念

乃木坂46・伊藤万理華✕柳沢翔監督が明かす、映画やPVの撮影現場で起きていること

 乃木坂46のPVや大手ブランドのCMを数多く手掛け、国内外で高い評価を受ける映像作家・柳沢翔の初長編監督作『星ガ丘ワンダーランド』が現在公開中だ。本作は、星ガ丘駅の「落し物預り所」で働く温人(中村倫也)が、幼い頃に姿を消した母親の死をきっかけに、20年前の真実と向き合う模様を描き出すヒューマンドラマ。今回、乃木坂46の1stシングル「ぐるぐるカーテン」の個人PVでダッグを組んだ伊藤万理華と柳沢監督の特別対談が行われ、個人PV『ナイフ』撮影時のエピソードや柳沢翔が持つ映像作家としての魅力を語ってもらった。

柳沢「万理華ちゃんは見ている人を引き込む力を持ってる」

【左から】柳沢翔、伊藤万理華

ーー久々の再会ですか?

伊藤万理華(以下、伊藤):きちんとお話するのは『ナイフ』の撮影以来だから……4年半ぶりくらいですね。対談するのは今回が初めてなので、すごく嬉しいです。

柳沢翔監督(以下、柳沢):すごくおしゃれになっていて、驚いてます(笑)。

伊藤:乃木坂46では、「シャキイズム」や「ガールズルール」のPVでご一緒することはあったけど、お話をする機会があまりなくて。撮影現場ですごく忙しそうにしていたので、本当は色々話しかけたかったけど、声をかけることができなかったです。

柳沢:そこは話しかけてよ。

伊藤:大変そうだったので遠慮しました(笑)。

ーー『ナイフ』を撮影した時のことを教えてください。

柳沢:僕にとって『ナイフ』はすごく思い出深い作品ですね。当時はCMを撮ることが多かったので、本当の意味で自分の作品を撮りたいと考えていた時期でした。ちょうどそのタイミングに乃木坂46の個人PVの話をいただいて。引き受けた時に、キャストは演技のできる人が良いとだけ伝えたことを覚えてます。そしたら、万理華ちゃんを紹介される流れになって。本番前に一回だけテスト撮影をして、明確な根拠はないんですけど、この子なら大丈夫そうだなって思いました。

伊藤:私にとっても『ナイフ』はすごく大切な作品です。当日に早起きしたことも、居眠りしたことも、いまだにその時のことは鮮明に覚えてます。当時はデビュー前で、まだアイドルのことも、演技のことも、自分のキャラクターさえもまったくわからない状態でした。でも、柳沢監督と一緒に撮影をして、私はこういう雰囲気が好きなんだって知ることができた。お芝居が楽しいって感じたのも『ナイフ』がきっかけでした。

柳沢:万理華ちゃんは本番中ずっと緊張してましたが、撮り終わって編集作業をしている時に、すごく素敵な女の子だなって思いました。なんて表現したらいいかわからないですが、顔をクローズアップしたカットだけでも、見てる人をグイグイ引き込んでいく力を感じましたね。演技経験の少ない人って、どうしても演技が一本調子になると思うんですけ、彼女はずっと揺らいでる感じで、見続けても飽きないんですよ。たぶん今、同じように撮るのは絶対無理だと思うんですけど、どうやって演じていたのかずっと不思議に思ってて。あの時は一体なにを考えてたの?

伊藤:撮影日は本当に緊張してたから、打ち合わせでも監督と全然話すことができなかった。それを察してくれたのか、監督もある程度距離をとってくれていたので、これは自分で考えて演技をしてもいいんだなって思いました。だから絵コンテをいっぱい確認して、自分の中で演技のイメージを固めた上で撮影に臨みました。撮影中は無我夢中でしたけど。

伊藤「ダークトーンの中にポップさが入っているところが魅力」

 

ーー伊藤さんから見て、柳沢監督の映像作品の魅力は?

伊藤:乃木坂46の雰囲気に合わせてるわけじゃないのに、私たちの魅力を引き出す映像が作れるところはすごいなって思います。特に「シャキイズム」の時は、台本と絵コンテを見た時にすごい興奮したことを覚えてます。男装するシーンとか、アイドルがこんなことやってもいいんだ! って。それに、小道具とかへのこだわりも強い印象がありますね。『ナイフ』の小道具もそうだし、「シャキイズム」に出てくる目の形をした監視カメラとかも素敵だなって思ってました

柳沢:『ナイフ』の時は、半分仕事で、もう半分は自己表現のつもりで制作しました。実際に撮ってみて、自分は意外と暗いテイストが好きなんだってことを発見できたし、少女漫画っぽい演出も好きだったのかって。自分好みのイメージを映像化する時、物語ではなく映像的にどう表現するといいのか、乃木坂46のPVを撮りながらいっぱい実験できたので、それが『星ガ丘ワンダーランド』にも生きてると思います。映画を撮る前に、プロデューサーの前田浩子さんから“大人が読む絵本”にしたいと言われて、それは僕もずっとやりたかったことでした。設定はファンタジーなんだけど、絵はものすごく暗くてシュールみたいな。映像の中にギャップを持たせるような表現にはずっと興味を持っていたので、今回挑戦できてよかったです。

伊藤:監督は暗いと言いましたが、そのなかに可愛いらしさやポップさがきちんと入っているところも素敵なんですよ。映像はダークトーンなのに、演出が乙女チックだったり、小道具がポップだったり、細かいところにまで目が行き届く方だと思います。実は、最初にお会いした時も、この方はおしゃれでマニアックな人だと思っていました(笑)。

ーー本作の映像でも、現実のパート、回想のパート、夢のパートでくっきり演出方法が分かれていましたね。特に、回想と夢のパートは幻想的な映像になっていました。

柳沢:元ネタは僕自身の思い出がベースになっていて、幼少期に見た大船駅からインスピレーションを受けました。当時の大船駅は東口と西口で街の雰囲気にけっこう差があって、東口はすごい栄えてるけど、西口は閑散としていました。大船駅の西口から廃線したモノレールの線路がずっと続いていて、その先に横浜ドリームランドっていう潰れた遊園地がそのまま残っていて、その一帯が廃墟みたいになっていたんですよ。その東口と西口のコントラストがなぜかすごい印象に残ってて、映画に使ってみようと思い立ちました。

 

伊藤:へぇ〜、そうだったんですね。初めて長編を撮ってみてなにか苦労はありましたか?

柳沢:最初から最後までずっと大変だった(笑)。脚本があがってきて、それを絵コンテに起こすことがまず辛かった。まわりから撮影に入れば天国だよって聞いてたんですけど、全然そんなことなくて、撮影も凄まじく忙しかったし、撮影後の編集作業はさらに地獄でした。これまで色んな映像を作りましたが、短編と長編はまったく違う筋肉を使うんだなって実感しました。

伊藤:なんか現場の様子が想像できます。PVを撮っている時もすごく時間が押してましたよね。

柳沢:本当に申し訳なかったです。

伊藤:悪い意味じゃないです! めちゃくちゃこだわる人なんだなって思ってました。監督の中で撮りたい絵は完成していて、それを映像化するためにすごい葛藤があったと思います。ここは違う、ここはこうしたいって一コマ一コマ丁寧に作りながら、現場で慌ててる姿が浮かびます(笑)。

柳沢:まさにその通りですね。どこで折り合いをつけるのか判断するのが一番つらかった。

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