『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』が、ヴィンテージ風の仕上がりとなった理由

ファンによるファンのための『スター・ウォーズ』

 

 2012年、ディズニーがルーカスフィルムを40億ドルで買収したニュースに、ファンは驚愕した。すでに複数のTVチャンネルや、ピクサー、マーベルを手中に収めているメディア界の「帝国」が、「スター・ウォーズ」や「インディー・ジョーンズ」シリーズなどの制作権や、グッズ販売権を獲得したのである。もちろんディズニーは、すぐに新作映画の制作に着手した。TVドラマの演出、「ミッション・インポッシブル」や「スタートレック」など、シリーズ作品のヒットに実績のあるJ・J・エイブラムス監督を抜擢したのである。自身も公言するとおり、エイブラムスは『スター・ウォーズ』シリーズの大ファンであり、しかも、本作の内容から痛いほど分かるように、典型的な旧三部作の原理主義的ファンであろう。映画オタクが『スター・ウォーズ』を作るという時代から、もはや、『スター・ウォーズ』オタクが『スター・ウォーズ』を作るという時代になったのである。

 本作で、メイン・キャラクターに廃品回収業の女性、その相棒にアフリカ系の役者を配し、様々な人種のキャストを採用するなど、近年のハリウッドで顕著になってきた、新しいグローバル的価値観を適用していることは、好意的に捉えるべきであろう。ルーカスの新三部作がいまいちカタルシスを与えなかった理由のひとつに、主人公達があまりにも超人過ぎるために、感情移入しにくいという点があった。この対策として脱走兵フィンという、今までになく平凡で善良な男を配置している。あるキャラクターはフィンを見て「お前の目は、逃げたがっている目だ」と指摘するが、これはファンの圧力から逃げたがっているエイブラムス監督の心情の投影でもあるだろう。そして、あたかもバトンを次に渡すように演出されたラストシーンは、重責からやっと逃れられた解放感に満ちているようにも見え、興味深い。

 ディズニーが今後展開を予定している、スピンオフを含めた今後の「スター・ウォーズ」シリーズの先陣を切る本作は、絶対に失敗してはならない企画のはずだ。とくに、多くの旧作ファンがそっぽを向いた「エピソード1」と同じ轍を踏むことは避けなければならない。だから、作品内でしつこいほど旧三部作との接点を強調し、惜しげもなく旧三部作の名シーンを使い潰すかのように、模倣的な要素を怒涛のように連発するのである。つまりこれは、ファンに宛てた壮大な「プロモーション・フィルム」であり、かつ「ファンの逆襲」を後押しするものだ。そして、「我々はあなたたちの望みをちゃんと分かっている」と伝えてくるのだ。それはまた、暗に、ルーカスによる新三部作のアプローチが、ファンの心情を無視した作品であることを一部認めたことを意味するだろう。「スター・ウォーズ」は、今や、ルーカスという映像作家の意向に左右される作品から、ファンの好みによって柔軟な対応をする作品へと変貌したのだ。結果的に、かなりのファンが喜んでいることから、このディズニーの作戦は成功しているといえる。

 だが本作は、ひとつの独立した映画作品として評価しづらいことも事実だ。前述のような作品の特性から、意識的ではあるものの、旧作の魅力に依存するものになっているからである。多くの続編作品同様に、縮小再生産になることを防ぐため、次作からは、ルーカスが成し遂げてきたような「独特で」「創造的な」要素を追加することを強いられるはずだ。そこからが、ディズニーの「スター・ウォーズ」の本当の勝負になるだろう。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

■公開情報
『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』
公開中
監督:J.J.エイブラムス
脚本:ローレンス・カスダン
配給:ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン
(c)2015 Lucasfilm Ltd. & TM. All Rights Reserved

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