書籍『ネットフリックスの時代』インタビュー(後編)

「Netflixは新しい競合の形を考えている」西田宗千佳が各配信サービスの特性を解説

「日本向けのコンテンツの充実度という点だと、Huluが頑張っている」

──現時点では、各サービスをテレビやPC、タブレットなど様々なデバイスで観ることができます。将来的に、視聴環境はどう変化していくとお考えですか。

西田:間違いなく、いちばん増えてくるのはテレビで観ることだと思います。レンタルビデオ的に使用する利便性が知れ渡ってマスになってくると、動画視聴機能を持ったテレビが売れ、機能の利用率も高まるでしょう。ただ、テレビの買い替えはすぐに進むものではないので、それまでは、PS4などのゲーム機で観る人、もしくは個室でスマホで観る人が圧倒的に多いと思います。一方で専用の端末を買う方は、それほど多くないと予測しています。

──西田さんご自身は、どのような環境でご覧になっているんですか。

西田:僕自身は、PS4かアップルTVで観ることが多いですね。あとは、寝る前にiPadなどのタブレットで観たり。時間的には、タブレットで観ているときがいちばん多いかもしれません。サービスでいうと、メインはNetflixとHuluで、Netflixでオリジナルドラマを中心に観て、Huluで日本のドラマや昔のアニメを観るという感じです。

──Huluは日本のドラマをかなり広範に押さえてますね。

西田:最近放送された日本テレビのドラマは、多くがHuluにありますね。だから日本テレビのドラマは:録画せずHuluで見るようになり、結果的にHuluの利用時間も増えました。日本向けのコンテンツの充実度という点だと、Huluが非常に頑張っている印象ですね。テレビ局としても、今年前半の業績が極めて悪かったこともあり、本格的に配信コンテンツを利用しようという機運が高まっています。一方でAmazonはTBSの番組が多く、Netflixはフジテレビの番組が多いけれど過去作はあまりないという印象です。テレビ東京は特にネットとの相性がいいようで、NetflixやHuluに作品を提供しています。アニメはもちろんですが、深夜ドラマにも根強い人気があり、たとえば『勇者ヨシヒコ』シリーズや『孤独のグルメ』などはバイラルもしやすく、ビデオデマンドに向いた作品といえます。

──Amazonの場合は、70年代などの古いドラマも入っていますね。

西田:Amazonはパッケージ販売の経験を通じて、日本では日本のコンテンツが特に売れる国になったということを熟知しているのでしょうね。強いオリジナルコンテンツがあるだけではダメで、同時に日本のコンテンツがなければ定着しないということを、他社以上に意識しています。一方で、Amazonはアダルトをすでにやめている。、それらがリビングのテレビには馴染まないことや、結局のところDMMには敵わないということを悟ったのでしょう。

──ちなみにDMMがストリーミングサービスに参入してくる可能性は?

西田:実はDMMは、テレビ向けとかゲーム機向けなどで最初期からビデオ・オン・デマンドを展開会社なんですよね。だから、DMMがストリーミングサービス戦線に入ってくる可能性はあると思いますが、彼らとしては、そこに対して過大な投資をするよりも、PCでのアダルト部門が強いので、そこまではやらなくてもいいと判断しているのではないでしょうか。『艦隊これくしょん』などのネットゲームも収益源になっているので、あまりレンタルビデオモデルにこだわる必要がないし、FXだってやっていますからね。紀里谷和明監督の映画『ラスト・ナイツ』に出資したりしていますけれど、そうした活動はあくまで自分たちのところにお金を溜め込んでおくのではなく、余剰収益で新規事業のタネを見つけよう、文化貢献をしようという動きなんだと思います。そういったところは面白いし、良い会社ですよね。

──最後に、Netflixを中心とした定額制動画配信サービスにおいて、今後はどんなジャンルのコンテンツが伸びていくと思いますか。

西田:テレビでは良質なドキュメンタリーを流すところが少なくなっているけれど、ネット配信で3年でリクープするならば、十分ビジネスとして成立する、と言われています。。すでにNetflixはドキュメンタリーに力を入れているので、ここがひとつ、差別化のポイントになるのではないかと思います。また、日本向けのコンテンツとしては、これまで地上波で流していたようなバラエティ番組が増えるでしょうね。特に吉本興業の芸人たちが、どんどんネットに参入してくると思います。吉本興業はアニメ会社と同じで、コンテンツに関わるすべての権利を自分の会社の中に持っていて、制作から販売、配信までできるオールラウンドプレーヤーなんです。又吉直樹さんの『火花』のドラマ化に関しても、自分たちがありとあらゆる権利を持っているので、それがいちばん高く売れるところはどこかを考えた結果として、Netflixを選んだということなんだと思います。バラエティ番組は意外と制約が多くて、芸人さんがビジネスをしにくい面もあるらしいので、それこそNetflixが向いているのかもしれません。

(取材=神谷弘一/構成=松田広宣)

■書籍情報
『ネットフリックスの時代 配信とスマホがテレビを変える』
発売中
定価:本体760円(税別)
著:西田 宗千佳
新書:224ページ
出版社:講談社

関連記事