Netflixオリジナル映画『ビースト・オブ・ノー・ネーション』監督

キャリー・ジョージ・フクナガ監督が語る、映画とネットとテレビドラマの未来

 内戦で家族を失った少年が残酷な兵士へと変貌していく姿を描き出した衝撃作『ビースト・オブ・ノー・ネーション』が10月16日からNetflixで配信されている。Netflix初のオリジナル作品、主演のエイブラハム・アタがヴェネチア国際映画祭で新人賞を獲得、イドリス・エルバはアカデミー助演男優賞ノミネート濃厚、などなど話題は尽きないが、今回リアルサウンド映画部では東京国際映画祭のため来日した本作の監督キャリー・ジョージ・フクナガにインタビューを敢行。脚本執筆や撮影へのこだわりなど様々な面から、どのようにしてこの傑作を作り上げたのかについて語ってもらった。

「ソダーバーグ監督と同じ方法で作品を撮りたかった」

キャリー・ジョージ・フクナガ監督

――まず、本作『ビースト・オブ・ノー・ネーション』を作ろうと思ったきっかけはなんだったのでしょうか?

キャリー・ジョージ・フクナガ(以下、フクナガ):15年以上前から少年兵についての映画をずっと作りたいと思っていました。カリフォルニア大学サンタクルーズ校で歴史と政治学を専攻していたのですが、西アフリカでは資源を巡って様々な内戦が行われている、そういう場所では子供たちが兵士として利用されているという話をその時に聞いたんです。その後、ニューヨーク大学の映画学科に通っていた際にこのテーマについてさらにリサーチして、2005年にウゾディンマ・イワエラ氏が執筆した小説"Beasts of No Nation"を読み、この美しいけれど非常に悲しい物語に感銘を受けました。そこには自分のリサーチと重なる部分があったので、その原作をふまえて脚本を執筆して、そこから約10年かかってやっと完成に至りました。

――アフリカの少年兵について独自にリサーチをしながらも、敢えてイワエラ氏の小説を原作として選んだ理由を教えてください。

フクナガ:まず実際に起きた事実ではなく、フィクションを元に脚本を書いたのには理由があります。リサーチしていた頃にも、子供たちの話を元に書かれたノンフィクションはいくつかありましたが、後になってその多くは事実と違っていた、一部が捏造されていた、あるいは信憑性が疑われるような作品だったということがわかったんです。だから脚本を執筆する上で自分としては少年兵の悲惨な現状を伝えるのに適したフィクション、つまり"物語"を探していました。そこで彼の小説と出会い、人々が少年兵というテーマに触れるにあたって素晴らしい導入口だと思ったんです。

――今回、長編監督作品では初めてご自身で撮影監督も兼任していますよね。

フクナガ:キャリアの初期に撮った短編では自分でも撮影監督をやっていたんですが、映画学科で撮影監督は別で起用するようにと教えられたので、それ以降は"監督として携わる作品"と"撮影監督として携わる作品"を別に分けていました。それでも、いつかスティーブン・ソダーバーグ監督と同じ方法(スティーブン・ソダーバーグはアメリカ映画界のルールに抵触しないように変名を使ってまで、多くの長編作品で撮影監督や編集を兼任してきた)で作品を撮りたいという気持ちがとても強くて、そこで実際にテレビドラマ『TRUE DETECTIVE』の撮影を自分でやってみたんですけど、これが本当に大変でした(笑)。しかし、これほど大変な作業をしたのだからこれ以上苦労することはないだろうと、次の長編作品となった本作また自分で撮ってみようと思ったんです。そして『ビースト~』に臨んだわけですが、今回もまた予想を越えて困難な作業となってしまいました。まぁ、良い経験になったと願いたいですね(笑)。

――撮影監督に撮影を任せるのと、自分で撮影を兼任するのには、どのような違いがあるんですか?

フクナガ:もともと自分は、他の撮影監督を立てるにしても、撮影には積極的に関わるようにしていました。アドリアーノ・ゴールドマンやアダム・アーカポーなど才能ある撮影監督と一緒に働けるのはとても光栄なことでしたが、彼らを起用するにあたっては、カメラワークや照明からレンズの種類の選択まで、自分も深く関与すると最初の段階で納得してもらってから仕事をしていたんです。自分が撮影監督をするメリットは、他者を介さずに自分の思ったカメラワーク、撮影法をクルーに伝えればそれがそのまま行われるという点において、撮影時間が大幅に短縮できることです。特に今回の『ビースト〜』ではロケーションの都合上、限られた時間の中でできるだけ多くの撮影をしなければならなかったので、アシスタントのカメラスタッフたちとブロッキングやアングルについて直接意見を交換しあい、しっかり確認作業をして、必要なショットを時間内で撮るということを心掛けていました。

「自分は、映画にとって音は撮影よりも大事だと思っている」

――『闇の列車、光の旅』『TRUE DETECTIVE』『ビースト~』と、あなたの作品の多くには、とても印象に残るカメラワークの長回しシーンがあります。これは意識的にやられていることなのでしょうか?

フクナガ:カメラの長回しは、別にそれをしたいがためにやっているわけではありません。時間がない中でできるだけ多くの内容を表現したい、緊張感を盛り上げたい、地形・情景をしっかり見せたいなど、その多くは技術上の理由からです。例えば『ビースト~』の少年兵たちが橋で奇襲攻撃をかけるシーンでは、橋までの道のりであったり、彼らがそこまで歩く導線であったりという、地理的な条件を観客に把握してもらいたいからという理由で長回しを使いました。長回しというのは私にとってツールの一つであって、頭の中で思い描いているイメージを一番良い形で表現する上でこれが適していると思った時に使うだけです。自分よりも長回しを上手く駆使している監督の名前を何人も挙げられますよ(笑)。

――もう一つ、『ビースト〜』でとても印象的だったのはその熱狂的な音や声の効果でした。少年兵たちは叫びによって忠誠を誓い、"指揮官"はさながら合唱隊を従える指揮者のようでした。映画において音楽や音声がとても重要な要素であることは言うまでもありませんが、そこに何か特別なルール、信条のようなものをお持ちですか?

フクナガ:ちなみに、あなたは『ビースト~』はどんな環境で観ましたか?

――Netflixで観たので、普通のパソコンで。音はステレオです。

フクナガ:すみません、ちょっと聞いておきたかったんです(笑)。そうですね……自分は映画にとって音というのは、それこそ撮影よりも大事だと思っているくらいです。今回の『ビースト〜』に関しては、セットにおける録音の環境がとても良かった、録音担当のスタッフが本当にいい仕事をしてくれました。戦闘シーンの掛け合いにしても、色々な音が鳴っている中でしっかりそれぞれの人物の声を拾い、その中でも主人公を含む主要キャラクターの声が上手く引き立つよう録音してくれたので、録り直す必要がなかったほどです。ただ、音響編集にあてられる時間が4週間ほどしかなく、その短期間で"物語"を形作らなければならなかったのは辛いところでした。私にとって一番重要だったのは、音によって空間を感じられる、空間を感じさせることでした。何が近くにあるのか、何が遠くにあるのかという距離感、これを音で表現することが肝心だったんです。危険が近づくにつれ音も大きくなる、最初は遠くで鳴っていたけどもそれが近くに来ることによって危険が迫ってくるのが観客に分かるような音作りを心がけました。それと、場面によって重要な音というのは異なります。けたたましく騒音が鳴り響く戦闘シーンでも、そこで重要な特定の音が効果的に聞こえるようにとても細かく気をつかいました。

——Netflixでは、作品は基本的にスマホ、パソコン、あるいは自宅のテレビで観られるわけですが、そう考えると、『ビースト〜』を映画館の音響で見ることができないのは残念ですね。

フクナガ:ホームシアターで観れば効果は得られるはずですが……。

——本作をNetflixで観た人は、ホームシアターの環境を整えたいと思うかもしれませんね(笑)。

フクナガ:実は、私の自宅にもないんですけどね(笑)。

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