『ヴィジット』に仕組まれた重層的なトリック 奇才・シャマラン監督の試みを読む
あまり多くのことを語りすぎると、せっかくのM.ナイト・シャマランの作家性を損なってしまいかねないのが難しいところである。とはいえ、やや躊躇しながらも、この『ヴィジット』という奇特な映画についての話を進めるにあたり、どうしても物語の核心に触れてしまうところが出てしまうかもしれないので、まっさらな状態でこの映画に臨もうとしている人には、ここで引き返すことをお勧めしたい。
とはいえ、仮にネタバレを聞いてしまったとしても、映画の本質は損なわれないはずであるし、ある程度知っているとディテールに目が届くというメリットはある。それでもシャマランの映画はラストのサプライズを売りにしているだけに、できるだけ予備知識なしで一度目を観て、大筋を掴んだ上でもう一度観るのが良いだろう。売りであるラストよりも、それに至るまでのプロセスが驚くほど緻密に作られているのだから、もはやラストのドッキリのほうが、伏線のような役割を果たしているともいえよう。彼は近2作で箸にも棒にもかからない映画を作って世界中を失望させただけに、映画において、いやむしろシャマラン映画にとってのラストの重要性を再考させる良い機会を与えてくれたように思える。彼がスリラー映画のフィールドに還ってきたことは非常に嬉しい。
例によって、「あなたはすでに騙されている」や「ラストは誰にも話さないでください」といった煽り文句で観客を刺激してくるあたり、ついつい身構えてしまうが、彼の作品を観るにあたっては、どのような伏線が張られ、どのような結末を迎えるのかを勘繰りながら観ることは、もはや当然の作法でもある。これまでの彼の作品に出てきたような、結末に繋がるヒントを探すために、ひたすらスクリーンを見渡し、瞬きひとつすることさえも勿体なく思えてしまう。しかし、今回のシャマランは、一見すると我々のそんな緊張を嘲笑うかのように、恐ろしく正直に向き合ってきたのではないだろうか。今までのような革新的なスリラー映画を構築することを敢えて避けているかのように、人里離れた家で起こる数日間の出来事を、オーソドックスなB級ホラー映画のようなルックで見せつけてくるのである。
思い返してみると、映画ファンを虜にした『シックス・センス』が日本で紹介されてから、ちょうど10月末で16年が経つ。それからも不死身の男を描いた『アンブレイカブル』をはじめとした奇天烈な想像力と、徹底した秘密主義、そしてヒッチコックへのオマージュを込めた作品の数々に、〝シャマラニスタ〟と呼ばれる固定ファンを獲得するまでに至った。わずか29歳で『シックス・センス』を作り出しオスカー候補に上がり、時代の寵児になったのも束の間、それからちょうど10年が経った2009年に発表した『エアベンダー』でメジャー系のハイバジェット映画に転身したと思いきや、次作『アフター・アース』と続けてラジー賞に挙がるなど、一般の映画ファンには不安な監督という印象を残してしまったのである。それでも、久しぶりの新作がメジャー系ではないと聞いたときは、これまでの鬱憤を晴らすかのような作品が登場することを期待したものである。もちろん、彼はローバジェットならではのアイデアに満ち溢れた構成力で、期待に応えてくれたのだ。