マキタスポーツ、“エロのインフレ”が起きていた『みんな! エスパーだよ!』の現場を振り返る

 先週末公開された『映画 みんな! エスパーだよ!』。リアルサウンド映画部では、先日公開した園子温監督へのインタビューに続いて、本作における「極めつけの変態」永野輝光役を演じたマキタスポーツにも単独取材を敢行した。(参考:園子温が語る、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』に負けない日本映画の戦い方

 マキタスポーツが永野役を演じるのは、テレビシリーズ以来2年ぶり。その間にも、園子温監督作品では『ラブ&ピース』にも出演。今や日本映画に欠かせないバイプレイヤーとしての地位を固めつつあるマキタスポーツだが、そんな本格的な役者としてのキャリアの原点には、2年前に初めて園子温の撮影現場で受けた洗礼があったという。今回の取材では、園子温監督への共感、園子温作品と(言うまでもなくマキタスポーツにとって芸人としての師匠でもある)北野武作品との違いについて、そして、近いうちに実現したいと本気で考えている監督業への野心まで、本音だけを大いに語ってくれた。(宇野維正)

「園子温作品はホームに戻ってきたような感じ」

——ドラマ版に続いて、今回の『映画 みんな!エスパーだよ!』でも永野輝光という、かなりバカとエロに振り切ったキャラクターを演じられていて。最近はシリアスな役を演じられることも増えていますが、久々にあの作品の世界に戻ってみて、いかがでしたか?

マキタスポーツ:それ以前もちょこちょこやってはいましたけど、2年前のドラマ『みんな!エスパーだよ!』は役者としてのキャリアが本格的に始まったばかりのタイミングの作品で、非常に衝撃的な体験だったんですね。鈍器で頭をぶん殴られたような。あの作品で高地トレーニングを積んでいるので、他のどんな現場に行っても、どんな役がこようが、平気というか(笑)。ちょっとおかしなオジサンみたいな役はいろいろやってきましたけど、あの役は前代未聞の変態ぶりなんで。ちょっと、ホームに戻ってきたような感じがありますよね。

——2年のブランクも、ものともせず?

マキタスポーツ:それが2年の間に自分もちょっと真人間になったみたいで、どうしても最初はリミッターがかかってるような感じがあったんですよ。だから「いけない! いけない!」と。あの役は完全にリミッターを外して、ボケきらないとダメだから。

——これは自分もマキタさんと同世代だから思うんですけど、年齢的に性欲のカタマリってキャラクターを演じるのはキツくなってきてませんか?(笑)

マキタスポーツ:そう。年相応に枯れてきてるんでね。でも、「それを取り戻すためにも!」ってものでもなくて、ちょっと歌舞伎の型みたいな感じになってきてますね。早くも自己模倣の段階に入ってきている。性欲に関して言うなら、もう1年1年、実にリアルになくなってきてますから(笑)。いつだってギンギンだぜとか、嘘ですから(笑)。もともと僕は、この輝光って役をもっとダンディに演じるつもりだったんですよ。でも、テレビドラマの時、園さんに「もっと動物みたいに、もっとケダモノみたいにやってくれ」って言われて。それってもう、精神的に犯されたみたいなもので(笑)。でも、それが園さんの演出方法で、女優さんに対してもそうなんでしょうけど、僕も男ですが園さんに精神的に犯されたような気持ちでした。きっとそこから、あの園さんの作品独特のエロスが生まれるんでしょうね。

——くだらない質問で恐縮ですけど、現場にあれだけ水着の女の子や下着の女の子がいて、普通にムラムラしたりはしないんですか?

マキタスポーツ:それが、まったくしないんですよ。きっとそれは歳とかとは関係なく、あの作品の現場ではエロのインフレが起きているんですよ。

——エロのインフレ(笑)。

マキタスポーツ:麻痺しちゃって、どんどん無になっていく。水着の女の子がゲシュタルト崩壊していくような感じ(笑)。園さんの現場は日常を引きずって入っていったらダメなんですよね。そこで、ちゃんとスイッチを入れたり切ったりする必要がある。

——園子温作品には、『みんな!エスパーだよ!』のドラマと今回の映画の間に、『ラブ&ピース』にも出演していますよね。お二人とも40代になってからブレイクをしたというところに、つい共通点を見出してしまうのですが。

マキタスポーツ:園さんは、よく挫けずにやってきた人なんだなぁって思いますね。ずっと我を通してきて、それをちゃんと通しきったって。きっとご本人はまだ「通しきった」なんて思ってなくて、そういう点でもすごく見習いたいと思うんですよ。僕も、いろんなところからお仕事をもらうようになって、だんだん自信を得ていったり、人からも信用を得ていくことへの喜びもあったりするんですけど、根本的なところでは変わってないぞって思っていて。だから、自分のやりたいことを通し続けているという点で、すごく共感を覚えますね。

——なるほど。

マキタスポーツ:僕は(北野)武さんのことが大好きで、武さんの影響をものすごく受けていて、武さんの映画も大好きで、今は武さんの事務所にいるわけですけど、園さんのおもしろいところは、武さんの影響下に全然いないところなんですね。映画の作り方も全然違う、独自の文法を持っていて。武さんの表現って、ホモソーシャルなところがあるじゃないですか?

——そうですね、まさに。

マキタスポーツ:でも、園さんは女の人を綺麗に、エロく見せるところにすごくこだわりがあって。あと、武さんって、今はまた少しずつ変わってきてるようにも思うんですけど、基本、役者に期待していないじゃないですか。でも、園さんは役者に期待をしていて。それに、いい意味でいまだにアングラ臭をもっている。園さんと一緒に仕事をしていて思うのは、自分がもともと好きだったものを、ずっと抱え続けていてもいいんだってことですね。役者の仕事をしていく中で、園さんの現場で初めて「撮影っておもしろいな」って思ったんですよ。園さんって、ものすごくライブ感をもって現場を回していく方で。みんな現場では園さんの感覚、情緒に合わせて、そのライブ感についていく感じなんですね。すごくセッション的な場というか。音楽もやっている人間としては、「あ、そういうことでもいいんだ」って思えて。だから、役者の仕事だけじゃなくて、音楽の仕事でレコーディングやライブをやる時にも、園さんの現場のあの感覚というのは、ものすごく役に立ってますね。

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