宮﨑あおいが『バケモノの子』映像美の秘訣を紐解く 三代目JSBを参考にしたシーンも
『バケモノの子』(公開中)の制作秘話を明かすドキュメンタリー特番『ZIP!スピンオフ大ヒット!バケモノの子宮﨑あおいが見た522枚の設計図と舞台裏』が8日、日本テレビで放送された。主人公・九太の子ども時代の声を担当した宮﨑あおいがナレーションをつとめ、同作に関わったクリエイター達を「バケモノの子」のならぬ「ホソダの子」として紹介。制作のこだわりを明かしながら、作品の魅力を伝えるという構成の番組だ。
522枚の絵コンテからなる同作。ひとつめの魅力として挙げられたのは「キャラクターの躍動感」だ。日テレアナウンサー・桝太一がアニメーション企画・制作会社「スタジオ地図」に訪問し、原画を担当した濱田高行にインタビューを行った。『かぐや姫の物語』『思い出のマーニー』などジブリ作品に参加。細田守作品は『サマーウォーズ』以来2作目となるトップクリエイターの濱田。今回の役割は、絵コンテを元にキャラクターたちに動きをつけること。絵コンテに書き込まれた細田の意図を汲みながら、「アニメーションらしい動き」を意識して絵を描いていくのだ。
例に挙げられたのは、熊徹とそのライバル・猪王山が初めて対峙するシーンだ。熊徹がステップを踏んで挑発する動きは、絵コンテでは「ダンスのランニングマンのよう」と書かれている。"ランニングマン"とは、三代目 J Soul Brothers from EXILE TRIBEが『R.Y.U.S.E.I.』で見せるダンスのこと。細田は打ち合わせの際、自分でステップを踏んでイメージを伝えたという。
また、熊徹と猪王山がぶつかり合う場面では、相撲をイメージ。相撲部屋で力士の取り組みを研究した結果、大きいもの同士がぶつかると、少し上に弾かれることがわかったそうだ。濱田は、ぶつかった瞬間に細かく毛を動かすことで、躍動感を出したと語った。
宮﨑によると、同作はアニメ作品には珍しく、同じシーンに出演するキャストはできるだけ全員揃った状態でアフレコを行うという。そんなアフレコを振り返り、宮﨑は「実際に横にいてお芝居をするので、相手が変われば自分も変わるし、一緒に呼吸をしながらできるのはやりやすい」とコメント。九太の青年期を演じる染谷将太は「温度感を肌で感じられるのでおもしろかった」と振り返った。また、台本には「以下AD(アドリブ)」と書かれている部分があり、宮﨑は細田から「他のキャラがしゃべっているので適当に」と指示を受けたことを明かした。例えば、熊徹の剣の教え方に文句を言うシーン。熊徹の九太の言い争いのラストでは他キャラのセリフが重なるが、バックでは2人がまだ口論を続けている。台本通り喧嘩の勢いを持続させているように聞こえるが、実はここがアドリブだったのだそうだ。
躍動感のあるキャラクターを支えるのは、ふたつめの魅力として挙がった「リアルで緻密な背景」。美術監督をつとめたのは、2004年にスタジオジブリに入り『ハウルの動く城』などを手がけた西川洋一。細田作品では『おおかみこどもの雨と雪』で大自然を描き、今回は渋天街を担当した。
西川のこだわりのひとつは、熊徹と猪王山が闘うシーンで、キャラの心情を陽の落ち方で表現したこと。はじめは晴天だが、熊徹が劣勢になるにつれて、空が黄色く染まっていく。ノックアウトされるときには、全体が黄色くなり、雲もどんよりと重くなっている――わずか5分で"真っ青から黄色"という大きな変化を見せるが、キャラクターの動きに注目していると、ことさら意識しないかもしれない。しかし、熊徹の敗北感を伝える重要な要素になっている。キャラクターが主役なら、背景はさながら名脇役と言える。
西川によれば、渋天街と渋谷はリンクしているという設定だそう。給水塔が109の位置にあるなど、象徴的な建物の形や道の通り方が一致している。西川がとくに細田のこだわりを感じたのは"闘技場"。建物の位置が代々木第一体育館と同じで、闘技場の外観はローマ・コロッセオをベースに、代々木第一体育館の側面のディテールを取り入れている。さらに、小さく映り込む木々の種類まで同じだという。枡が「そこまでこだわる意味は?」と問うと、「思いは最後に絵に出る。(ざっくり描けばいいという気持ちでは)こういう世界にならない」と熱弁した。
最後に紹介されたのは、映画のクライマックスで登場する「夜空を舞うクジラ」。手がけたのは、『サマーウォーズ』では仮想世界のCGを担当した、緻密な画面作りを得意とするCGディレクター・堀部亮だ。クジラが登場するシーンの絵コンテには、「幻想的に跳躍する」という細田のコメントが書かれている。「敵なんだけど美しく見せたい」という細田の意向から、水しぶきを光らせて幻想的に見せるという方向性に決定。試行錯誤を重ねた末、堀部が参考にしたのは「発光プランクトン」だった。物理的な動きを受けて光る映像からヒントを得て、渋谷の街を壊しながら夜空を泳ぐ、美しいクジラが完成した。
ストーリーはもちろん、キャラクターの動き、背景、CGなど、見どころが多い同作。既に劇場へ足を運んだ人でも、本稿で紹介した映像的なこだわりを意識しながらもう一度観れば、新たな発見があるのではないだろうか。
(文=近藤雅人)