エバース・佐々木が考える「ダサい」芸人とは?「好きでもない芸人のこいつを見てどう思うか」
人気お笑いコンビ・エバースの佐々木が初の書籍『ここで1球チェンジアップ』(太田出版)を上梓した。昨年のM-1グランプリでは3位となるなど、今波に乗っているエバース。同作には、佐々木の学生時代のエピソードから、お笑い芸人になってからの歩みまでが本人の言葉で記される。
佐々木はここまで芸人としてのキャリアをどのように捉えているのか、またどういった考え方で芸能界を渡り歩こうとしているのか。本人に直接話を聞いてみた。
元日向坂46の影山優佳のエッセイにドキリ?
――書籍が発売されました。率直な心境はいかがでしょうか。
佐々木:まだM-1グランプリに優勝したわけでもないので、偉そうかなとも思ったんですけど、いろいろな人から反響をいただいて、結果的に書いて良かったなと思います。
――執筆活動は初挑戦だったと思います。本が出来上がり、手応えはいかがでしょうか。
佐々木:正直全くなくて。締切があったので、そこまでに書き切るという気持ちでしたね。途中で元日向坂46の影山優佳さんのエッセイをSNSで見かけて読んだんですよ。それがすごい言い回しもある頭いい人の文章で、その後自分の文章を読んだら「めっちゃまっすぐ書いてんじゃん」と恥ずかしくはなりました(笑)。でも、読みやすいとも言われるので結果オーライですかね。
――まっすぐ佐々木さんの思いが文章に落とし込まれていると思いますが。赤裸々に書くことに照れみたいなものはなかったのでしょうか。
佐々木:そうですね。もう無我夢中で書いていました。締切に間に合わないと思って思ったことをとにかく書いていた感覚です。
――一番身近な相方の町田さんからも感想はいただけましたか。
佐々木:町田はまだですね。町田は僕にあまり興味がないので、読んでくれないと思います。ただ、仕事で関わるスタッフさんからは「買ったよ」とか「読みました」と言ってもらって嬉しかったですね。でも、「一日で読んじゃいました」とか「すぐ読めました」みたいに言われると、内容薄かったんかなとはちょっと思いましたけど。でも良いことなのかなと。
――今回はウェブで連載していたものに新たなエピソードも収録されています。制作中に印象的な出来事はありましたか。
佐々木:今は単独ライブ中なので、ネタ作りと同時進行の時期もあっていっぱいいっぱいでしたね。そのときに楽屋で町田はずっと寝ていたので、ムカついて解散しよっかなとか思いましたね(笑)。
――執筆していくうちにご自身のことを振り返ることになったかと思います。客観的にご自身についてどう考えましたか。
佐々木:まだ旅の途中ではありますけど、だいぶ運が良かったなと思いますね。野球やめて自堕落な生活を送る可能性もありましたし、ずっとバイトだけしてる人生になる可能性もありました。芸人になってからたまたまうまく行っていますけど、全然飯食えてない可能性もあったんで、うまいこといったなって感じです。僕が生まれてからいろんな世界線が分かれているんだとしたら、だいぶ運がいい世界線に来ている感じはしますね。
――書籍には佐々木さんの学生時代、部活の経験も書かれています。当時から、今のようなネタが作れるようになる想像はありましたか。
佐々木:これは僕の持論なんですけど、学生時代に一個のことを一生懸命やっていた人の方が面白いが確立されてるんで、ネタに芯がある感じがするんです。「こういうのやっとけばウケるでしょ」じゃなくて「これ面白いと思ってるんで」という漫才になるというか。学生時代に野球部内で面白いと思われるためにやっていたこと、部室で喋っていたことは今にもつながっている気はしますね。
――芸人になってからはずっと漫才と向き合ってきて、『ここで1球チェンジアップ』でコラムを執筆する機会は新鮮だったかと思います。
佐々木:たしかに漫才作っていたときは、相方をどう面白くするかと考えていました。こういう本を書くとなったら、自分のことを書くので新鮮ではありましたね。月に1回、お題だけもらって即興漫才をするライブをやっているんですけど、最近は僕だけ一方的に喋ったりとかしています。町田は後半僕に任せてサボっていました。
――ネタの話でいうと、もうまもなくM-1グランプリ2026がスタートしますね。
佐々木:こんな本を書いて決勝行けなかったらと思うと、自分へのプレッシャーにはなった気がしますね。より漫才頑張んなきゃというか。よりストレートを磨くことでチェンジアップも生きてくるんでね。
――編集者の方から「目標を失ってしまった方への希望になれば」というテーマで執筆を依頼されたそうですね。書き上げてみて、どんな一冊になりましたか。
佐々木:テーマについて意識して書いていなかったことに気づいて、最後うまいことまとめてそれっぽくしたんですけど……。でも、やる気がなかった時期とか共感してくれるところは多いと思いますし、クドカン(宮藤官九郎)さんも「共感しかない」って言ってくれてるんで、やっぱり共感してくれたらいいですね。
――話にもありました、宮藤官九郎さんが帯を担当することになった経緯を教えてください。
佐々木:宮藤官九郎さんが、2023年のM-1グランプリの敗者復活戦を見てくれて、その後の単独ライブ見に来てくれたんですよ。出身が同じ宮城県で、僕が登米市でクドカンさんが栗原市と近いので、せっかくだったらダメ元でお願いしようという経緯ですね。快く受けてくださって、帯の文章もすぐ送ってくださってさすがだなと。
――では、改めてこの書籍をどんな人に届けたいですか。
佐々木:やりたいこと見つかってないからとりあえずフリーターやってますみたいな人とか、次の一歩にまだ踏み出せてない人とかに読んでもらえたら嬉しいですね。
「ダサさ」との向き合い方
――書籍を読ませていただくと、普段の佐々木さんの輪郭がはっきりと見えてきて、「ダサいことをしない」というのがテーマになっていると思いました。佐々木さんにとって「ダサい」ってなんですか。
佐々木:うわーなんだろうな……「ファンしか喜ばないことする」とかですかね。仕事において選択を迫られるときがあるじゃないですか。やるべきかやらないべきか迷ったときには、そこを重要視するかもしれないです。自分が一般の視聴者だったときに、好きでもない芸人のこいつを見てどう思うかを判断基準にしています。
――以前、めぞんの吉野さんに話をうかがったとき、ファンとの向き合い方についてお聞きし、吉野さんも喜ぶだけのことをしないというかむしろ突き放しているなと感じたのですが、それと近い感覚なんですかね。
佐々木:あいつ、M-1ツアーで歌うたってて、僕からするとだいぶ恥ずかしいことしてましたけどね。でも、それも吉野からしたら、過去の自分が見ても恥ずかしくないからやってることかもしれない。自分の感覚に従ってると思うので、合っているとは思うんですけどね。
――佐々木さんは町田さんにラジオで「恥ずかしいことすんなよ」と常々忠告していました。逆に佐々木さんは自分の芸人キャリアで恥ずかしいことはしてこなかったのでしょうか。
佐々木:そんなこともないですね。思い返したらめっちゃ恥ずかしいし、ダサいことしてたなとか全然あります。あとは、自分がそういう発信をしたせいでできなくなったり、どんどん自分の行動が狭まってきますよね。
――メディアに出るようになって、そうした基準自体は変わってきているんでしょうか。
佐々木:基本は変わっていないですけど、自分の中で許せる幅は広がったような気がします。
――なるほど。幅ですか。
佐々木:全然人気なかった頃は、人気ある芸人のこういうことシャバいなとか思っていたんですけど、今考えたら売れてないのに人気あるのすごいなと思いますし。他の芸人に対しても、あれはあれですごいことだなという感覚は昔より持てるようになりましたね。
――やはりエバースさん自身が売れて、見え方が変わってきたんですね。
佐々木:そうっすね。僕らも人気ある芸人として扱われることもあるので、こういう気持ちだったんだと思うようになりましたね。
――最近ではバラエティ番組での活躍はもちろん、大企業のCMにも出演されたりまさに人気芸人になってきていますが、こういう未来図は描けていましたか。
佐々木:思ったよりうまくいったなという感じはしますね。こんなにお客さんがライブに来てくれるようになるとは思わなかったですし、いくらM-1決勝行っても単独ライブの配信(※昨年の単独ライブは配信チケットの売り上げ5000枚を記録)をこれだけ買ってもらえるようになる芸人になるとは思っていなかったです。
――しかも、テレビも出つつ劇場出番もしっかりあります。
佐々木:M-1出ているうちは劇場優先で仕事を入れてもらったりもしているので、バランスよくできてるかなと思います。
――今後、エバースさんが目指すロールモデルは誰になるのでしょうか。
佐々木:そのときそのときで変わってきますよね。漫才ってなったらブラックマヨネーズさんは理想形だなと思いますし、コンビでテレビとなったらバナナマンさんやオードリーさんを目指してやったほうがいいかなとも思います。じゃあ自分がMCってなったら、どういうMCを目指せばいいのかと悩みますし、立ち位置によって勉強になる芸人さんがいるという感じですかね。
◾️書誌情報
『ここで1球チェンジアップ』
著者:エバース 佐々木隆史
価格:1,980円(税込)
発売日:2026年7月14日
出版社:太田出版