新アニメ『攻殻機動隊』は原作漫画をどう改変している? 比較してわかった、ディテールへのこだわり

 第二話の放送を迎えたサイエンスSARU版『攻殻機動隊』。今回は前回の「SUPER SPARTAN」の終盤と、原作コミックでは3つめのエピソードである「JUNK JUNGLE」の前半が放送された。

 攻殻機動隊が結成される直前までで終わった前回。今回は聖庶民救済センターでの事件を経て、荒巻が素子の要求通りの「攻性の組織」こと攻殻機動隊の創設を告げるところから始まった。原作コミックでいうと、「SUPER SPARTAN」のラスト5ページ目前後からの内容ということになる。

 大した差ではないものの原作と異なるのが、バトーが荒巻の車に「花火」を仕掛けるくだりである。直前にバトーは一人だけ報告書を書く仕事を押し付けられており、素子達のいるバーへ到着するのが遅れたのだが、コミックでは特に説明なくそのまま入店している。しかしアニメでは駐車場で荒巻の車を発見するシーンが追加されており、多少説明が追加された形となっている。全てを説明しないのが士郎正宗作品の特徴ではあるが、コミックと映像を見比べると「さすがに理解しづらいだろう」とアニメ版スタッフが判断した箇所がよくわかる

 続いて攻殻機動隊としての素子たちを描く初のエピソードである「JUNK JUNGLE」へと移る。このエピソードは押井守による劇場アニメ版でもピックアップされており、またこの時点で本作の重要登場人物(「人物」ではないのだが)である「人形使い」が初登場。ガベル共和国の内紛とプラチナの取引を背景に、人形使いが清掃車を使ったトリックで外務大臣の通訳にウイルスを侵入させ、素子ら攻殻機動隊のメンバーは逆探知でハッカーを追いつつ事件の背景を探る。また、コミック版随一のセクシーなシーンとして知られる、素子とその友人たちによる「エンドルノ」の収録が含まれているのもこのエピソードだ。

 エンドルノは電脳サイボーグ用の擬似体験ソフトの商品名とされており、素子が副業として収録しているのは性的な内容を多分に含むものである。さすがに原作そのままでの映像化は難しかったようで、このシーンについてはセクシーではあるものの「ちょっと前のアニメっぽいお色気要素」の範疇に収まるものになっていた。注目したいのはその直前、マレス大佐の邸宅を監視しているバトーのもとに荒巻が現れるシーンである。

『攻殻機動隊(1)』(ヤングマガジンコミックス)55ページより

 アニメでは荒巻が枝を踏む音に気づいたバトーが拳銃を取り出す流れになっているが、コミックでのこのシーンはもう少しプロっぽい。コミックでのバトーは地雷を発見した直後、何者かの接近を感知して拳銃の撃鉄を起こす。その後光学迷彩を身につけた荒巻が枝を踏み「わしだ」と口に出したところで、バトーは撃鉄を元に戻すのである。

 短いシーンだが、この一連の流れはまずバトーが音を立てる前に何者かの接近に気付いており、即座に戦闘態勢に移ったことを示している。荒巻もバトーにその水準の実力があることは承知しており、音を立てつつ名乗ることですぐにバトーの警戒を解いている(もしもバトーの排除を狙っている敵なら、枝を踏むようなミスはしない可能性が高い)。また一度撃鉄を起こしたあと、指だけで安全に撃鉄を戻す(デコッキング)のは、ある程度以上銃の扱いに慣れていないと難しいアクションであり、それを手元も見ずにこなしているバトーのプロらしさを示している。

 こういったディテールを特に説明もなく突っ込んでくるのが士郎正宗作品の面白さなのだが、これはさすがに映像にしても伝わらないだろう。そこにカロリーを割かず、「荒巻が後ろから近づく→バトーが気付く」というシンプルな流れにしたアニメ版の判断は、納得のいくものだと思う。

 「JUNK JUNGLE」は銃器に関するセリフが多いのも特徴のエピソードだ。ハッキング犯を追うためにトグサと素子が偽装したバンの中で準備をする場面は、アニメ版でもしっかりと描写されていた。この場面は押井版でも省略されることなく挟まれており、トグサの名ゼリフである「俺はマテバが好きなの」(原作では「俺はM2007が好きなの!」)もこのシーンで口にされたものだ。

『攻殻機動隊(1)』(ヤングマガジンコミックス)64ページより

 この場面で素子がサラッと肯定している「スリーアンドハーフのセブロ・スナブで25ヤード12発3秒ピンヘッドできる」というのは、凄まじい話である。アニメのセリフで流されるとなんとなく聞き流してしまいそうになるが、ここでトグサが聞いているのは9課メンバーの射撃の腕についてである。元々軍人でもなく、部隊にとっては新米であるトグサとしては、装備班から聞いた他のメンバーの信じがたい射撃テクニックについて、本当のところを聞いてみたくなったのだろう。

 セブロは9課が標準装備として使っている拳銃の製造元の会社名である。スナブとは「snub nose」の略で、英語で獅子鼻・団子鼻を指す言い回し。そこから転じて、銃身の短い回転式拳銃を指す意味もある。つまり、9課が使っている単銃身の拳銃を指すのが「セブロ・スナブ」である。スリーアンドハーフというのは3と1/2インチのバレルを搭載しているという意味であり、メートル法ではコミックの欄外にある通りおよそ9㎝。確かに短銃身に分類していい、コンパクトなサイズだ。

 一般的に銃身の短い拳銃は弾道が不安定な傾向があり、またそもそも拳銃というのはちゃんと当てるのが難しい武器である。それを1秒間に4発という連射速度で、25ヤード(22.86m。これもコミックの欄外にある)の距離にある釘の頭に当てるのである。さらに続いて素子は「マンシルエットなら100ヤード(91.44m)でも当てる」と言っており、サイボーグの話とはいえ、短銃身の拳銃を使っているとするならこれも凄まじい技量だ。この世界のサイボーグたちの高い戦闘の技量、そして9課が使っている火器の精度の高さが、この一連のセリフだけで表現されているのである。

 これだけ高い射撃精度を持ってい流にも関わらず、セブロ・スナブは5ヤード(4.572m)以内に接近するまで使わないと素子は言っている。続く「絶対確実に倒せる距離まで接敵する能力」を重要視しているというセリフは興味深い。彼らはスナイパーでもなければ精密射撃競技のプレイヤーでもない。激しく変化する状況の中で動き続ける目標を仕留めるのが9課の戦闘であり、義体化を前提とした驚異的な射撃精度は、そのために必要な最低限の道具でしかないということが示されている。

 その後、素子は新米であるトグサがリボルバー(マテバM2007。実在の拳銃をもとにした架空の銃)を使っていることを咎め、実効制圧力の高いセブロの自動拳銃を使うよう要請する。2人組で動いている以上、同僚が頼りない火器を使っているのは問題である。押井版などと違い、コミックではこの後トグサはセブロに切り替えている。このあたりのドライな判断も、コミック版とそれを下敷きにした今回のアニメ版の見どころだろう。また、銃に関する一連の会話を通して9課がどういった組織なのかが浮かび上がってくるのも、コミックに忠実に作られた今回の『攻殻機動隊』の面白さである。

 その後、素子とトグサの追跡によって清掃員に擬似記憶を捩じ込んだ犯人が発見され、逃走を図るところで終わった第二話。コミックではこの後市場を舞台にした大立ち回りが展開され、このアクションシーンは押井版でも前半の山場となっていた。これらの作品で展開されてきた銃撃戦を今回の『攻殻機動隊』はどう処理するのか、来週も楽しみに待ちたい。

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