松田未来「自分のことを頼れる、信頼できると思えたら」 6年ぶりのエッセイ『私が私を生きる「余白」の美学』トークショー
コスメブランドディレクター・松田未来による新刊エッセイ『私が私を生きる「余白」の美学』の発売を記念したトークイベントが、6月12日に代官山 蔦屋書店にて開催された。
本書は、重版を続けるロングセラーエッセイ『私が私らしく生きる美学』から6年ぶりとなる全編書き下ろしの新作だ。スピード感や生産性が求められる日々の中で、自分にとって本当に大切なことを見失わないために、心と体の土台をつくるエッセンスを綴ったエッセイ集となっている。
本稿では、イベント前に行われた囲み取材で語られた本書に込めた思いと、モデルの松木育未を迎えたトークショーの模様をレポートする。
囲み取材では、まず今回、再び本という形で発信するにいたったきっかけが語られた。前作『私が私らしく生きる美学』から6年。松田のもとには、「コロナのつらかった時に救われました」と今なお読者から感想が届き続けているそうで、「次に書くとしても、20年ぐらい先かなと思っていたんです。でも、この6年でたくさんの新しい経験もしたし、そろそろタイミングかもしれないと思って書きました」と経緯を明かす。
本書には、エッセイに加えてショート小説「あさねの台所」も収録されている。執筆のきっかけは自身のサブスクリプション内で読者から睡眠についての悩みが寄せられたことだった。
松田自身も、頭が冴えてしまい眠れない時期があったという。たくさん歩いたり運動したりして体を疲れさせても、ベッドに入るとかえって頭が働いてしまう。そんな時に助けになったのが、何度も聴いたことのある物語をAudibleで流すことだった。内容を追わずに聴けるため、自然と眠りにつきやすかったという。
サブスクリプション内でその体験を話したところ、「未来さんの声で朗読してほしい」という声があったそう。「実は、このお話(「あさねの台所」)はサブスクリプションの中で先に朗読していて。ありがたいことに、活字でも読みたいというお声をすごくいただいたんです。そこで今回エッセイ本を作ることになった時に、“実は小説があるんです”とお声がけしたら、ブックインブックのような形で入れてみようということになりました」と語る。
物語の中にあるのは、大きな事件ではなく、日々の穏やかな暮らしや食べ物の気配。エッセイが自分自身のことを綴るものだとすれば、小説では雨を降らせることも、猫を懐かせることもできる。自分に近い世界を描きながらも、創作だからこそ選べる自由がある。その感覚は、松田にとって新鮮なものでもあったようだ。
「事件が起きるとか、ストーリー展開が気になって仕方ないというものではなくて、おいしい食べ物が出てくるような、穏やかな生活に寄り添う小説を作ってみようと思いました。現代ではあるけれど、SNSのように現実に引き戻される話は出てこないものがいいなと。実は、あさねを主人公にした第2弾も書いているんです」
囲み取材後に行われたトークショーは、よりリラックスした空気の中で始まった。会場では、松田お気に入りの「Cheesy Poche」のクッキーが参加者に用意された。松田は参加者に向けて、「食べながら、リラックスしながら聞いていただけたら」と声をかける。
ゲストの松木育未は、松田について「尊敬する、大好きな方です」とまっすぐに語る。2人の出会いは、約7年前。前作のもとになったWeb連載で、松木がモデルとして参加したことがきっかけだったという。以来、仕事を通じて親交を深めてきた2人。松木のウェディングフォトでは、松田がヘアメイクを担当したというエピソードも明かされた。
一足先に新刊を読んだ松木は、「この書籍自体が本当に可愛くて、中ページの写真も素敵で、持っているだけでお守りになる存在だなと思いました。未来さんが綴る文章には、私自身が感じていることと重なる部分もあって。ハッとさせられたり、優しい気持ちになったりする言葉がたくさんあります」と感想を述べた。
トークショーでは、本書で扱われているテーマについても話が広がった。
「前回は季節で分けたんですけど、今回は4つの色をもとに構成しています。チャプター1は、私の中にある強さやたくましさを感じるテーマ。チャプター2は内省的な静かさ、チャプター3は自由さ、チャプター4は愛情や優しさを感じるテーマを集めました」と松田。
章ごとに異なる色合いを持つ構成だからこそ、読む人によって心に残る場所も変わってくる。松木が特に好きだと話したのは、チャプター3に収められた「名前のつかない趣味」だった。
「私の趣味ってなんだろう? とずっと思っていたんです。実際に聞かれて迷うこともあって。でも未来さんの本を読んで、散歩をしたり、おいしいものを食べたり、紅茶を入れる時間が好きなら、それも趣味でいいんだと思えてすごく嬉しくなりました」(松木)
このテーマは、編集者からの提案をきっかけに生まれたものだったという。「趣味がないことに悩んでいる人もいる」という視点に触れ、松田自身も改めて「趣味」というテーマに向き合い、今回の本ならではの視点で綴ったことを明かした。
自分の好きなものや過ごし方を、周囲と比べてしまう場面は少なくない。SNSをはじめ、誰かの日々の充実や成果が自然と目に入る時代において、人と比べてしまうことも身近なテーマのひとつだ。トークショーでは、本書に収録されている「隣の芝生は青いほうがいい」という話題にも触れられた。
「近くの人や周りの環境が調子いい感じのほうが、自分にもラッキーがやってくる気がするんです。信頼している人が夢を叶えていく姿を見ると、私もすごく嬉しいし、明るい気持ちをもらえる感じがします」(松田)
近しい人の成功を自分との差として捉えるのではなく、自分にもよい流れを運んでくれるものとして受け止める。そこには、松田の物事をしなやかに見つめる考え方がにじんでいた。
終盤には、仕事における「気持ちの着地点」の話へ。松木は、自身も仕事で「またこの人と仕事がしたい」と思ってもらえることを意識していると語った。それを受けて松田は、今回の本づくりに関わった人たちへの思いを明かした。
「本は私の名前で出るものではあるんですけど、編集のプロ、デザイナーのプロ、フォトグラファーのプロ……いろんなプロの方の力のおかげで形になったものだと思っています。関わってくれた皆さんに楽しいと思ってもらえたり、やりがいを感じてもらえたりすることは、私にとっては大切で。『もし次があるなら、また一緒にやりたい』と思ってもらえるような関わり方ができたらいいなと思っていました」
編集、デザイン、写真など、それぞれのプロの視点が重なり、多くの人の手を通して形になった本書。松田の言葉からは、ものづくりにおける人とのつながりを大切にする姿勢が伝わってきた。
トークショーの最後に、松田は読者へ向けて改めてメッセージを送った。
「帯にも“最強のバディは自分”と書いていただいたんですけど、自分のことを頼れる、信頼できると思えたら、生きていくことが楽しみになるし、心強くなると思うんです。一生自分はそばにいてくれるので、この本が、これからの人生に少しでも光を感じていただけるきっかけになったら嬉しいです」
トークショー後には、松田から参加者へサイン本を手渡す時間も設けられた。会場は最後まで穏やかな空気に包まれ、イベントは和やかに幕を閉じた。
■書誌情報
『私が私を生きる「余白」の美学』
著者:松田未来
価格:1,870円(税込)
発売日:2026年6月10日
出版社:双葉社