絵本なのに「ムンッ」とした顔? くどうれいん × 及川賢治が初タッグ『ぜんぶやりたい まにちゃん』インタビュー
(作:くどうれいん・絵:及川賢治/Gakken)
エッセイ、小説、絵本、短歌など、さまざまな分野で活躍し、多くの支持を集める作家のくどうれいん。100%ORANGEとしても活動し、イラストレーション、絵本、漫画、アニメーションなどを制作している及川賢治。枠にとらわれないクリエーションを続ける二人が手を組んだ、絵本『ぜんぶやりたい まにちゃん』(Gakken)が2026年4月に刊行された。
絵本の主人公となるのは、歌手に消防士に水泳選手と、毎日ちがう仕事をしているまにちゃん。どれも全部やりたいことなのに、街の人たちには「どれが いちばん だいじなの?」と聞かれ、まにちゃんは困ってしまう。そしてある日、まにちゃんはとんでもない風邪をひいてしまい……。
まにちゃんの「全部やりたい」というストレートな想いと行動力に胸を打たれ、読み終えた後は大人も元気をもらえる『ぜんぶやりたい まにちゃん』。ユニークながらも普遍性をも感じさせる絵本は一体どのようにして誕生したのか? 物語を手がけたくどうと、絵を手がけた及川に制作の裏側を聞いた。
二人にとっても夢の共演となった『ぜんぶやりたい まにちゃん』
ーーくどうさんと及川さんは、もともとお知り合いだったのですか?
及川賢治(以下、及川):いや、今日初めてお会いしたんです。
くどうれいん(以下、くどう):はい、今日が初めて。
ーーお互いに存在はご存じでしたか?
くどう:もちろん! 私、及川さんたちが(100%ORANGE名義で)館内のキャラクターデザインを手掛けた「岩手県立児童館 いわて子どもの森」が小さい頃から大好きで、そこで遊んでいたんですよ。
及川:えっ、僕たちがあれをつくったとき子どもだったんですか?!
くどう:はい、だから「『いわて子どもの森』のあの絵を描いた人と一緒に絵本を出すんだ!」という、すごい感動があるんですよ。
ーー及川さんはくどうさんのことをご存じでしたか?
及川:知っていましたし、本も読んでいました。共通の知り合いが多そうだけど、なんとなくそこ止まりというか、なかなか仕事でのお付き合いがくどうさんとはなくて。自分がイラストを描いた媒体に、くどうさんが文章を書いていらしたりとかはしていたんですけどね。
くどう:そうですね。私が好きな人は、みんな及川さんのことが好きだから、つながっている感じはとてもありました。
ーーじゃあ『ぜんぶやりたい まにちゃん』は、お二人にとっても夢の共演だったのですね。
及川:依頼がきたときうれしかったですし、もうすぐにやるって決めました。あまりに鼻息が荒かったので、一晩くらい寝かしましたけど。
くどう:編集を担当された筒井大介さんとは「もし及川さんにお願いするのが無理だったとしてもメソメソしないようにしようね」と言い合っていたし、まさかそんなにすぐお返事をいただけるとは思わなかったので、びっくりしました。
ーー単行本版『ぜんぶやりたい まにちゃん』の前に刊行された月刊保育絵本版の「作者のことば」の中で、くどうさんは10代の頃にさまざまな分野で執筆していることについて、大人から「さいごはひとつにえらばなきゃだめだよ」と言われるという、まにちゃんと似たような体験をされたと書かれていました。ご自身の体験を反映させた物語にしようと思ったきっかけは何だったのでしょうか?
くどう:月刊保育絵本ということで気合いも入っていましたし、かつ3月刊行の絵本で2025年度分の12冊が終わるというところで、どうせなら何かエネルギーのあるものをやりたいなという気持ちがあって。シンプルにおいしそうなお話とか、季節に寄せて友だちと出会う・別れるみたいなお話も最初のほうは考えていたんですけど、なんかうまくいかなくて。
体重が乗っていないと、うまく書けないことってあるなと思って、自分が今どういうお話を読みたいかなということを考えたとき、「やりたいことをやろう」というシンプルなお話を、環境が変わるかもしれない3月というタイミングにやってみたいと思ったんです。
ーー最初からメッセージを込めようと考えていたのですか?
くどう:メッセージを込めるというよりは、私の全部やりたい気持ちみたいなものを解放するというか、心の中の羊も牛も馬もにわとりもみんな放牧するみたいな気持ちですかね。
ーー及川さんはくどうさんが書いたお話を読んだとき、どんな印象を受けましたか?
及川:もう、まにちゃんのことを好きになっちゃって、まにちゃん応援隊になっていました。まにちゃんは途中で風邪をひいてしまうので、「がんばれ!」って。でも確かにドキュメンタリーっぽい手触りを感じて。たぶんそこで何か現実的なものが邪魔しない程度に入っているほうが良いと感じて、木の写真をコラージュで入れたくなったんだと思います。
ーー曜日ごとにいろんな仕事をしているまにちゃんにクローズアップするのではなく、まにちゃんが街の中にいる様子を俯瞰して描こうと思われたのはどうしてですか?
及川:物語を初めて読んだとき、後半にさしかかったタイミングで「この絵本はすごく引きの構図だな。我慢して我慢して、ずっと引きでいって、どこかでポイントをつくるか!」と見えてきて。街の人が絶対に大事なので、街の人たちがいっぱいいる中で「あれ? まにちゃんはどこだろう?」と一瞬思ってしまうくらいの絵の中にまにちゃんがいるイメージでラフをつくりました。
エド・エンバリーというアメリカの絵本作家がいるんですけど、彼はすごく引きの構図で小さい列車や動物を描いていて。それがかわいいので、編集者の筒井さんにはエンバリーの作品みたいにしたいと言っていました。結局は全然そうならなかったですけど、引きの構図についてだけは最初に決まっていましたね。
くどう:テキストを書きながら、まにちゃんのことも、街の人の無邪気でちょっと残酷な感じも、その両方を描きたいんだろうなと思っていたようなところがあって。まにちゃんが主人公なんだけど、まにちゃんだけがいる世界じゃない感じがしていたんです。だから、及川さんから届いたラフを見たら街の人がいっぱいいて、すごくびっくりしました。まさに、そういうまにちゃんを見たかったから。
本当に私からはテキストをお渡ししただけで、まにちゃんは男の子とも女の子ともお伝えしなかったし、どちらでもない感じにしたかったっていうのはあったんですけど、そのこともお伝えしていなくて。全部、何もかもお任せでお願いしたのに「そうそう!」みたいな、想像以上のものが届いたので感動しましたし、「私、こんなに良いテキスト書いていましたっけ?!」みたいな感じになりましたね。
及川:絵が入るとイメージって変わるんですか?
くどう:変わりますね。変わるというか、テキストがより読めるようになる。自分で書いているはずなんですけど、客観視してテキストが読めるようになるので、「ここは削ろう」みたいに頭も切り替わります。でも昨年の年明けにラフをいただいた時点で「2026年は、こんな素敵なものを作れただけでもう安泰!」って思えましたし、絵本が完成した今は「私のお守りができた!」という感じもあります。
パワフルなまにちゃんを楽しんでほしい
ーー表紙のまにちゃんの表情は、けっこう冒険をされたなと感じました。絵本の中でまにちゃんがあの表情になる場面では、表情については文章だけで表現して、絵は後ろ姿だけにするというのは誰のアイデアだったのでしょうか?
及川:僕のだったんですけど、「それは それは おいしそうなケーキ」みたいな文章と一緒で、絵で表現しちゃうと余計なことをしちゃう感じがしたんですよね、きっと文章から想像する顔のほうがすごいから。
くどう:私、この一冊って「楽しい絵本」というよりは「エネルギーみたいな絵本」だと思っていたので、表紙のラフが届いたときに「あ、もう全てが伝わっている!」って気持ちになりました。表紙でまにちゃんが何か楽しそうにしている感じだったら違うなと思っていたので。
及川:そうだよね、にっこりだったら違うもんね。
くどう:表紙でまにちゃんがニコニコしていたら「やりたいことをやれて楽しい」みたいな感じになると思うんですけど、「やりたすぎてムンッとなっている」というのがやっぱりかわいい。なんなら肩もちょっと上がっているし。それがすごくうれしかったですね。
ーーくどうさんは月刊保育絵本版の「作者のことば」の中で、作家になった現在は「さいごはひとつにえらばなきゃだめだよ」と言われなくなったけど、まだ不安を感じるとも書かれていました。エッセイ、小説、絵本、短歌とさまざまな分野でご活躍されている今でも不安を感じることがあるのですか?
くどう:全然不安ですし、これは賞を獲ってないことも無関係じゃないような気がするんですよね。賞を獲ったことがある人の葛藤もあると思うんですけど、私は1位というのがずっと獲れず、高校生のときから1位だけがいつも獲れなくて。その状態がずっとっていうのが、たぶんコンプレックスとしてあって。あと俳句だけ、小説だけ、短歌だけをやっている人のことをすごくかっこいいと思っているのですが、そういう風になれない自分への後ろめたさみたいなものもあります。
及川:十分かっこいいけどな。くどうさんがそんなこと思っているの、知らなかった。
くどう:だからテキストと絵が組み合わさったものを、自分に読み聞かせをするみたいにしてめくったときに、最後のページで2回くらい泣いてしまいました。同時に「こんな私のためでしかない絵本を出していいのだろうか?」みたいな気持ちになってしまうくらいにはまにちゃんにありがとうって言いたくなりました。
ーー『ぜんぶやりたい まにちゃん』を読んで、元気や勇気をもらえる人も多いと思います。お二人としては、読んだ人にどんなことを受け取ってもらえたらうれしいですか?
くどう:私、しんどいときにすごく酸っぱくて顔がギュッとなる山ぶどうのジュースを飲むんですけど、なんかそういう強力なビタミンみたいな感じが『ぜんぶやりたい まにちゃん』にはあって。だからエネルギーを感じてほしいですね。躍動感もあるし、けっこう映像的な絵本になっていると思うので、パワフルなまにちゃんを楽しんでほしいです。
及川:僕も、まさにくどうさんがおっしゃった通りで。なんかメッセージじゃなくて、パワーが伝わればいいのかなっていう気がしますね。
■書誌情報
『ぜんぶやりたい まにちゃん』
作 :くどうれいん
絵 :及川賢治
価格 :1,760円(税込)
発売日:2026年4月09日
出版社:Gakken