大人気の「マイクラ肝試し」、なぜ小説に? ゲーム実況者・クー × 小説家・橘もも対談

 2011年の第1回イベント開催からほぼ毎年行われ、昨年第13回の開催を数えたオンラインの一大イベント「マイクラ肝試し」。主催者でありゲーム実況者であるクーが、ゲーム「マインクラフト」の世界に巨大な肝試しマップをつくり、人気YouTuberやVTuberなど多くのゲーム実況者・配信者を招待し、チームごとにギミック満載のマップに挑んでもらうという内容だ。

 毎年異なる趣向をこらした世界観と、新しいギミックで、参加者も視聴者も胸躍らせる本イベント。2025年にはなんとイベントの「前日譚」を小説化するという試みまで実施された。いったいなぜ「マイクラ肝試し」を小説化しようと思ったのか? 主催のクーと、小説家の橘ももに話を聞いた。

「マイクラ肝試し」小説化の背景

――昨年、マイクラ肝試しが行われると同時に刊行された小説『マイクラ肝試し2025 Book of Märchen』は発売前から反響がすさまじく、発売前重版を含め三度も重版されたとか。現在AmazonのKindle Unlimitedでも配信中で、ますます読者層も広がるのではと思いますが、イベントの世界観を、どうして小説にしようと思われたのでしょう。

橘もも(以下、橘):担当編集者さんがもともと「マイクラ肝試し」の大ファンで、「このつくりこまれた世界観を小説化してもおもしろいのではないか」とずっと感じられていたそうなんです。2024年「ぼくらの夏やすみ」というテーマで肝試しが開催されたとき、その想いが確信に変わったそうで、クーさんに企画のご相談をしたと聞いています。そうしたら、なんと2025年のテーマは「童話」。より小説と親和性が高いテーマだということで、ぜひとも!とお話がもりあがった……んですよね?

クー:そうですね。僕たちも毎回、世界観をつくりこむだけでなく、配信者にはこんな気持ちで参加してほしい、こういうストーリーをたどってほしいと考えたりもしていましたので、小説にしてもらえるならそれはおもしろいだろうと思いましたが、同時に、「売れなかったら申し訳ない」という心配のほうが先立ちましたね(笑)。明確な起承転結があるわけじゃないし、大丈夫だろうか、と。

――橘さんは、これまでも映画やマンガだけでなくゲームのノベライズも手掛けていますが、マインクラフトやゲーム実況については関心があったのでしょうか。

橘:申し訳ないことに、あんまり詳しくなくて……。息子をもつ友人たちが、ある時期からみんなマイクラの話をしはじめたので、基本的な知識はあったのですが「そのゲーム内で肝試し」となると、まったく想像がつかなくて。とはいえ、個人的に「誰かが深く愛するものにはそれだけの魅力がある。まずは飛び込んで、好きになって楽しむ」が信条なので、初心者でも大丈夫ならぜひ、と参加させていただくことにしました。その後、クーさんと定期的に打ち合わせをして、制作途中のマップなどを見せていただきながら、だんだんと理解を深めていった感じですね。

編集担当K氏:クーさんからは、マップ制作会議の様子をこまめにご共有いただいて、資料もすごく詳細なものをたくさんいただいたんです。制作途中のマップに実際にお邪魔して、クーさんにギミックの解説をしていただきながら橘さんが見学する、という打ち合わせを2〜3週間に一度くらいやっていました。

橘:「マップのこの場所にはこういう仕掛けがあって」とか「この世界観はこういうつもりでつくっていて」とか、もうとにかく細かいところまで配慮してつくっているクーさんの想いに触発されて、どんどん楽しくなっていきました。お菓子の家やハンプティ・ダンプティのビジュアルなど、書き終えたあとに完成したものについては、あとから文章を調整して、あわせたりしましたね。でも、クーさんからは「ゲームの進行から外れても大丈夫。どんどん自由にやってほしい」とおっしゃっていただいたので、けっこう、好きに書かせていただきました

クー:もっと自由に暴れてくださってもよかったんですよ(笑)。

アイデアの原点は小学生のころの「妖怪クラブ」

橘:クーさんが用意されている世界観があまりに緻密なので、小説に盛り込まないのはもったいないと思っちゃったんですよね。本当に、よくもこれほど壮大な世界観をつくりあげられるものだ……と惚れ惚れしちゃうんですけど、そもそもどうしてマイクラで肝試しをやろうと思ったんですか? 

クー:遡ると小学生のころ、「妖怪クラブ」をたちあげたんですよ。コピー機でつくった会員権を持っている人は放課後に集まって怪談を一話ずつ披露するというコミュニティで。路地の壁にみんなで描いた妖怪やおばけの絵を張り付けて、夜そこを歩くという遊びもしていたんですよね。

橘:すごい! 子どもながらに企画者側だったんですね。アイディアのきっかけって、何かあったんですか?

クー:毎年、夏休みになると、近所の遊園地     に建設される『ゲゲゲの鬼太郎』のおばけやしきに連れて行ってもらうのが楽しみで、それが原体験になっているんですよ。

橘:その原体験が、『マイクラ肝試し』の企画につながっていくんですね。

クー:大人になってからマインクラフトで遊んでいるとき、ふと、夏だし肝試しをやってみるかと思ったのが始まりですね。第1回目を開催した2011年ごろはマインクラフトの実況者も数人しかいなくて、配信者の主戦場はニコニコ動画でした。当時はあまりにマイナーすぎる上に、実況者同士のなれ合いだと思われて、かなり評判が悪かったのを覚えています。

――今は想像もできないような状況ですね。当時のニコニコ動画の雰囲気について教えていただけますか。

クー:ニコニコ動画内での文化といいますか、当時の肌感としましては、あくまでゲーム実況動画の投稿は権利的にグレーゾーンであり、動画投稿者同士も個々のつながりはありませんでした。そこに『マイクラ肝試し』が、動画投稿者や配信者同士でのコラボ、しかも生配信の企画として開催されたことで、かなり反発を生んでしまったように思います。

橘:今ではこんな盛大なお祭りになっているのに。

クー:そういった状況があって、心が折れてしばらくお休みしていたんですが、観たい、という声も聞こえてきたので2014年に再開しました。一人でも望んでくれる人がいるならと、そこからは毎年続けているという感じですね。

橘:再開したときの評判はどうだったんですか?

クー:生配信の文化が育っていたのと、僕自身が実況者としての活動を増やしていたので、それほど悪くはなかったですね。その後、ニコニコ動画内ではマインクラフトが徐々に話題に上りにくくなったこともあり、まだまだマインクラフトで盛り上がっているYouTubeでのメイン開催へと移行していって、現在に至ります。

橘:タイミングって大事ですね……。

クー:でもいまだに、探り探り。本当にみんなが楽しんでくださっているのか、不安になりながら制作しています。むしろ、その不安があるから、来年はもっと頑張ろう、もっとみんなを驚かせて楽しませるものをつくろうって思えるのかもしれない。

橘:『ゲゲゲの鬼太郎』のおばけやしきは、私も子供のころ、夏休みに体験したことがあって。でも、基本的にジャンプスケア的なものが苦手で、そのときも号泣して歩けなくなって、横から外に出してもらった記憶があります。原体験としてはクーさんの真逆なのに、こうして関われているのがなんだか不思議。

クー:そのわりに、小説の描写はけっこう「ここまで書いていいの?」と思うくらい怖いところもありましたよね(笑)。

橘:それは、編集のKさんが「子ども向けといえど、本気で怖いものを書かなくては、楽しんでもらえない」と煽ってきたので……(笑)。私も「ここまで書いていいんだ」って思いました(笑)。ただ、小説だからある程度グロテスクでも許容できるところがあると思うんです。クーさんは肝試しのイベント表現で気をつけているところはありますか?

クー:YouTubeというプラットフォームの規約上、あまりグロテスクな表現や、差別につながりかねない表現にはならないよう注意しています。ありがたいことに参加者も視聴者もどんどん増えているので、なるべくみなさんを不快にさせず、誰もが楽しめるイベントにしようということは、常に頭に置いていますね。

原作者のつくる世界観にいかに溶け込むか

――その上で、ゲームの要素を大きく拡張するModを導入するのではなく、創意工夫で世界観を作られているのが印象的です。今回は、物語を「小説」で拡張するという手法にも納得してしまうというか。

クー:そうですね。Modなしで画面の明るさを自在に変更できるシステムもオリジナルで組んでいて、普通に視聴しているだけではわからないこだわりがたくさんあります。

橘:肝試しならではの、足元は見えるけどその先はわからない、絶妙な光の加減はどうやって調節しているんだろうって不思議でした。吹雪に巻き込まれるシーンなんかも、リアルでしたよね。

クー: 怖がらせるという演出上の理由だけでなく、プレイヤーを誘導する仕掛けとしても有効なんです。遠くまで明るく見通せてしまうと、「あそこに扉があるぞ、出口だ!」とみんな走っていってしまうでしょう。でも、先が真っ暗だと短い距離であってもみんな恐る恐る歩いてくれるんですよね。だから、ここは「5ブロック先までは見えて、6ブロック目からは見えないようにしよう」「この場所は一寸先は闇で、2ブロック目までしか見えなくした方がいい」「お菓子の家はしっかり見せたいから、ここは30ブロック先までクリアに見るようにしよう」と、かなり細かく調整しています。ほとんど誰も気づいてくれないのですが(笑)。

橘:あまりに当たり前のように演出されているから、それがすごいことだって気づきにくいんじゃないでしょうか。

クー:かなり挑戦的なことをやっているんですけどね。

橘:マップは最後までこだわって調整されていたと思うのですが、本番で一視聴者として見守っていたら、最初の入り口に「真にかしこき者たちへ」と書かれていて興奮しました。あれは小説オリジナルの演出だったので……。

クー:英語にしちゃいましたけどね。

橘:それもカッコよくて雰囲気出ていました。他にも、「もしかしてこれは小説の内容を反映してくださっている……!?」と思う部分がちょこちょこあって。ノベライズを書くうえでいちばん心掛けているのは、原作者のつくる世界観にいかに溶け込むか、たとえ原作と異なる要素があったとしても、いかに「ありそう」に演出するかなので、逆輸入していただけるくらいのものが書けたのかな、と思ったら本当にうれしかったです。

クー:先ほども言ったように、もっと原作からそれてもよかったのに、という想いはありつつ「ここまでグロい描写もありなんだ」と驚かされもして。物語がイベントと小説でうまくリンクする作品を書いていただけたのが、僕としても嬉しかったんですよ。参加者の方々にも「エンディングの意味やその後の詳細は、小説を読んでください」と小説を配布させてもらいました。

橘:ありがたすぎる……!

――本気で「怖い」内容だからこそ、配信を見返すと、あらためてそんな世界を軽やかに、あるいは騒々しく、楽しく駆け抜けたプレイヤーたちの姿がより魅力的に映ります。この小説から入った人のために、アーカイブを見てもらいたいおすすめの組についても伺えますか。

クー:岡本信彦さんや木村良平さんという人気声優が参加している組もありますし、Vtuberがお好きな方なら白上フブキさん、さくらみこさん、星街すいせいさんのホロライブチームも盛り上がっていました。ただ、あえて一組あげるなら、やっぱり小説のモデルになってくれた「絶叫特等席」(ふぇころん、スパーク、囲炉裏、えふやん)ですね。

橘:初心者の方は、キャラクターの名前をもじらせていただいた、絶叫特等席の配信をまずは観てみると楽しみやすいかもしれませんね。

クー:小説主人公の名前「まさよし」はふぇころんさんの本名のもじりで、フェコロンさんには小説と同じく、妹さんがいらっしゃるんですよね。なので妹(いのり)役には一番ビビリな囲炉裏さん。女性的な雰囲気で話すことの多いスパークさんは、すばるという名前の女の子。不遇な扱いもエンタメにしてくれるえふやんは楽天的な先輩(えふや)、という感じで、配役のざっくりした提案は僕からさせてもらいました。

橘:それも含めて、本当にいろいろと細かく連動させていただけて、ありがたかったです。個人的にもやっぱり思い入れが強いので、配信を観るのもたのしかったのですが、名前のとおり美しく絶叫なさっているみなさんに、すっかり虜になっちゃいました。

――今年も楽しみですが、テーマはもう決まっているんですよね。

クー:だいたい前年の制作中に翌年のテーマは決まっていて、構想も練り始めているんですよ。2026年版のロビー(待機所)の制作は、昨年から着手しています。もともと漫画やアニメが好きで、映画も海外ドラマもよく観るので、そのつど「時代の風」を感じながら、インプットしたものを極限まで放出していきたいと思っています。

橘:マイクラ肝試しは、どのタイミングで、どんな形で別のステージに移行するのか、という展開が重要で、その構成力が素晴らしくて。物語の作り手としても勉強になりました。

クー: 小説家の先生に言っていただけて、本当にうれしいです(笑)。

――ファンとしては、毎回小説版も展開してくれないかな……と、勝手な期待を寄せてしまいます。

クー:ふふふ(笑)。

橘:意味深な(笑)。もしそうなったらぜひまた参加させていただきたいですね。でも今はただ、一視聴者として今年がどんなテーマで盛り上がるのか、楽しみにしています!

■書誌情報
『マイクラ肝試し2025 Book of Marchen』
著者:橘もも
原著:クー(クーYouTubeちゃんねる)
イラスト:合鴨ひろゆき
企画・原案:マイクラ肝試し制作チーム、ガジェット通信
価格:1,540円
発売日:2025年9月24日
出版社:KADOKAWA

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