りくりゅうペア「恋愛よりも尊い」関係性とは? 80年代漫画『銀のロマンティック…わはは』に再注目のワケ

 イタリアのミラノとコルティナ・ダンペッツォで開催された2026冬季五輪。今大会では各競技において日本人選手が目覚ましい活躍を見せたが、中でも大きな注目を集めたのが、フィギュアスケートのペア種目で日本勢初となる金メダルを獲得した三浦璃来、木原龍一組、通称「りくりゅう」ペアだ。この歴史的な快挙を受け、ある一冊の既刊本が異例の注目を集めている。漫画家・川原泉が1986年に発表したフィギュアスケート漫画『銀のロマンティック…わはは』がそれだ。全1巻という短い話ながら、白泉社から刊行された単行本や文庫版『甲子園の空に笑え!』の収録作品として長く読み継がれてきた名作である。

メロディ編集部(白泉社) X(@Melody_hakusen)より

 本作は、バレエの才能はないけれど身体能力は高く、母と通ったスケートが大好きという由良更紗と、競技中の大怪我で引退したスピードスケート界の元スター・影浦忍がある日偶然出会い、「フィギュアスケート・アイスダンス」でペアを組む。世界の舞台で輝くため、2人は猛練習。競技会にて結果を残すも日本の壁は薄かったが、世界の壁は厚かった。作中では、2人が世界と戦うために、連載当時はフィクション上の設定であった4回転ジャンプに挑む。そして、2人は最高の演技を披露し、審査員の採点が読み上げられるなか真っ白な風景の中で立ち尽くす。この切なくも美しいシーンは、今なお多くの読者の記憶に残っている。

 りくりゅうペアの歩みもまた、この物語に重なる部分が多い。木原は男子シングルから転向後、結果が出ず引退を考えた時期もあったが三浦と出会い、結成7年で世界の頂点に立った。今大会では、ショートプログラムでのミスからフリーで大逆転。演技終了後に2人が抱き合って涙を流す姿は、まさに漫画の世界が現実になったかのような光景。ファンからも「40年越しに現実が漫画を超えた」「未来を予見していたのではないか」といった声が上がったものだった。

 注目したいのは、2人の深い結びつきだ。ペア競技は男女が組む特性上、しばしば恋愛感情と混同されがちだが、過酷な練習を積み重ね、氷の上で互いの命を預け合うペアの間にあるのは、より精神的で強固な信頼関係である。『銀のロマンティック…わはは』でも、川原が描く登場人物たちは、甘い恋愛模様よりも目的を共有する相棒としての連帯感が強調される。互いの個性を尊重しつつ、一つの目標に向かって心身を一致させるその姿は、読者に「恋愛よりも尊い」という感情を抱かせたが、りくりゅうペアが見せた“歓喜のハグ”はまさにそれだろう。

 現在のフィギュアスケート界を多角的に描く作品として、つるまいかだの漫画『メダリスト』も高い評価を得ている。こちらはシングルの物語だが、選手の心理描写や技術的なリアリティが詳細に描かれ、漫画ファンの間で大きな話題に。劇中では小学生が4回転を跳ぶなど、かつての漫画で描かれた高度な技が現代の標準となっている変化がよくわかる。

 また、フィギュアスケートを題材とした漫画では槇村さとる作品も有名で、『愛のアランフェス』やアイスダンスの奥深い世界を描いた『白のファルーカ』、競技の過酷さを正面から描いた『モーメント 永遠の一瞬』などがある。

 現実のフィギュア界では、今大会の男子シングルで佐藤駿が銅メダルを獲得。女子シングルでは、今季限りでの引退を表明している坂本花織が銀メダルに輝き、17歳の中井亜美がトリプルアクセルを成功させて銅メダルを手にするなど、世代を超えた活躍が続いている。こうした選手たちの活躍により、スケート漫画への注目度も高まっていきそう。そしてまた、未来の選手たちが現代の漫画の世界を軽々と飛び越えた演技を見せてくれるのだろう。

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