【漫画】食虫植物は虫以外も食べる? 悩める社会人の再生を描く読切『ヴィーナスは愛を喰べる』が切ない
仕事に悩む社会人・ハヤトが出会ったのは「人喰い」の噂が流れる食虫植物・サクラ。2人は時間を重ね、少しずつ関係を築いていく。ハル千代さん(@n_harusenden)が描いた漫画『ヴィーナスは愛を喰べる』は読者の心にざらりとした感触と、切なくもあたたかな余韻を残す作品だ。
果たしてハヤトは「人喰い」の噂通り、サクラに食べられてしまうのか……。創作のきっかけ、食虫植物・サクラについてなど、作者・ハル千代さんに話を聞いた。(あんどうまこと)
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ーー本作を創作したきっかけを教えてください。
ハル千代:本作は新卒で4年くらい勤めた会社を辞めたタイミングで描いた作品です。本作の主人公と同じく企画開発職として仕事がスムーズに進まなかったことがあったんです。会社への感謝もたくさんありましたし退職理由は異なりますが、当時モヤモヤしていた自分の心情を表現しつつ漫画として面白くできないかと思い創作しました。
ーー本作のモチーフとして「食虫植物」を選んだ理由は?
ハル千代:小学生のとき、夏休みの自由研究として食虫植物を育てていたことが理由の1つです。食虫植物って虫を食べるイメージですが、そのほかのものも食べることがあるんです。なんでも食べる食虫植物のことを思い出して、どこか「人っぽさ」や「体温」のようなものを感じ、作品のモチーフにしたいなと思いました。
はっきりとした知能がなくても、ロボット的に可愛く喋る。食虫植物特有の「気持ち悪さ」とともに「可愛さ」も両立させて描きたいなと意識しながらサクラを描きました。
ーーサクラにはチャットで会話するAIサービスのような雰囲気も感じました。
ハル千代:本作を描いた当時、日常的にAIをつかう機会は少なかったですが、いま振り返るとサクラにはAIっぽさがあると思います。サクラは意思をもって人間を食べたいとは思っておらず、食事として食べるみたいなところで考えていて。たまたまハヤトが近くに来たから食べようとしたーー。
私たちも野菜を育てるとき、市販されている野菜よりも自分で育てて食べた方が美味しいと感じることがあると思います。サクラもハヤトを愛しているけれども、それはサクラがハヤトを美味しく食べるため。ただ物語の中でサクラを成長させられたらいいなと思い、最後にサクラが決断するシーンを描きました。
ーー本作を描くなかで印象に残っているシーンは?
ハル千代:サクラがハヤトを食べようとするシーンです。私は「このシーンが描きたい」と思ってから漫画を描き始めることが多く、本作ではまさにこのシーンが最初に浮かんでいました。
序盤は食虫植物らしからぬサクラの可愛いらしいところを描きつつ、ハヤトを食べるシーンだけは背筋が少し冷たくなるような怖いシーンにしたいという思いを込めて描きました。
ーーハル千代さんの作品には「人と人以外の生き物」の関係を描くものが多いように感じます。
ハル千代:私は、いわゆる本能・性をベースにした恋愛というものに、なぜかあまり興味が持てなくて……。もちろん性愛の関係を否定するわけではなく、本能を超越した2人の絆みたいなものにエモさを感じることが多いんです。だから食虫植物といったキャラクターと人間の関係といった、どこか不思議な絆が好きなのかもしれないです。
ーー漫画を描き始めたきっかけを教えてください。
ハル千代:以前まで二次創作の同人誌を描くことはありましたが、一次創作物(オリジナル作品)を描くことは少なかったです。ただ会社を辞めた後、転職活動をしながら「1回、漫画をしっかり描いてみたい」と思い、大阪の漫画教室に通い始めました。そこで先生に勧められて出版社へ持ち込みをしたところ、担当さんが就いてくださって。現在は商業媒体でのデビューを目指して作品を作り続けています。
本作は漫画賞に応募した作品なのですが、受賞には至らず、一時期は「自分はダメなのかな」としょんぼりしたこともありました。今の担当さんには丁寧に接していただいているのですが、担当さんというたった1人の読者を納得させる(面白がらせる)ことがいかに難しいことかと感じながら漫画を描いています。
ーー今後の目標を教えてください。
ハル千代:漫画で億万長者になりたいという思いはありませんが、自分が日々感じたことを描いた漫画を誰かが読んで喜んでくれて、対価を頂くことで自分の生活も循環していく……。自分の描いた漫画で誰かを救ったり喜ばせたりできる漫画家になれたらいいなと思っています。