M-1優勝芸人・たくろう、文筆家としての魅力は? 「たくろう赤木の面白いとこ」の面白いとこ

 今年もM-1が面白かった。とくに優勝したたくろうの漫才は爆笑だった。

 このコラムでは、そんなM-1優勝芸人たくろうのボケ・赤木がどんな文章を書くのかを紹介する。あのオドオドした感じで「PCR検査ぁ……5年連続ぅ……陽性~」と言っていたほうである。

 なお、M-1での漫才を見た感じだとどちらがボケかを判別するのはむずかしい気もしたが、コラムの紹介には〈人気コンビ・たくろうのボケ担当、赤木裕が色々なものの「面白いとこ」をフィーチャーしたコラム〉とあるのでボケのはず。M-1が終わったあとにYouTubeでお笑い芸人たちが決勝を語る動画をいくつか見たが、赤木が言うことのほうが実質ボケなのに、システム的には相方の木村バンドのほうが変なことをしているので、赤城のボケにツッコミが入らない漫才になっていたのが斬新だったらしい。

 赤木の文章は、吉本興業がやっている「FANY Magazine」というサイトで読むことができる。「たくろう赤木の面白いとこ」というタイトルの連載で、赤木がいろんなものの「面白いとこ」を紹介していくという内容だ。毎回「M-1の面白いとこ」とか「野球の面白いとこ」とか「巨人の面白いとこ」とか「コンビニの面白いとこ」とかが何個か紹介される。はっきり言うと大喜利である。もうすこし正確に言うと、大喜利+赤木の日常でこのコラムは構成されている。

 ちなみに上で挙げた4つの実例のうち野球成分を多めにしたのはわざとで、赤木が元野球部の野球好き芸人であることを強調したかったからである。関西人なのに巨人ファン、というところに勝手に親近感を覚える(逆に敵意を抱くひともいるかもしれないが)。巨人の面白いとこ3つのうちひとつは〈大失敗ネーミング〉だそうだ。わかるひとにはわかる「スコット鉄太朗」というあれである。ちょっと懐かしい。

 とはいえ、赤木のコラムの面白いとこを紹介するのはなかなかむずかしい。というか、素人がお笑いの面白いとこをちゃんと面白く紹介するのは至難の業である。ただ、そんなことを言うと職務放棄になってしまうので、好きだった回をひとつ紹介しよう。「豆腐の面白いとこ」という回である。

 赤木は〈僕の好きな食べ物の1位はそばで、2位は豆腐です〉と言う。渋い。しかし、豆腐の面白いとこのうちのひとつは〈豆腐本来の味には誰も期待してないところ〉らしい。〈僕は醤油やポン酢を食べるために豆腐を食べています。豆腐は調味料を液体から固体に変えるための食べ物です〉と赤木ははっきり言う。

 この「かっこつけないそのまんま感」が、赤木の文章の面白いとこだ。「コラムの面白いとこ」という回では、〈僕は読書が苦手なので4年に1冊くらいのペースでしか本を読みません〉と書いたりしている。アホなのにできるだけ賢く見られたい悲しい性を持つ自分のような人間からすれば、このあっけらかんとした感じが羨ましい。

 ちなみにそんな赤木が去年読んだ本は、ベストセラー小説『成瀬は天下を取りにいく』(新潮文庫)だったとのこと。赤木の出身地でもある滋賀を舞台にしたこの小説では西武大津店が大きくフィーチャーされるが、なんと赤木はそこで警備員のバイトをしていたことがあるそうだ。しかも赤木は小説の主人公・成瀬と通っていた小中学校まで同じだったらしい。すごいシンクロぶりである。そもそもこの小説自体、成瀬が漫才コンビを組んでM-1に挑戦する話でもある。

 そんな赤木のコラムだが、2019年11月にスタートして以来ほぼ月1のペースで更新されていたものの、今年の更新は3回にとどまっている。本気でM-1をとるために漫才に注力していたのだろうか。しかもM-1をとったことで今後は大忙しになること間違いなしなので、さらに更新が遠のいてしまうのかもしれない。そのうち一息つけるようになったころに、赤木の肩ひじ張らない「そのまんま」スタイルでM-1前後の怒涛の日々を振り返ってみてほしいものである。

画像出典=「たくろう赤木の面白いとこ」(「FANY Magazine」)
URL=https://magazine.fany.lol/tag/akagi/

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