『ワールドトリガー』に“沼る”秘密は? 内容の深さと「王道とは真逆の展開」を解説

 葦原大介による人気漫画が原作のアニメ『ワールドトリガー』が、10年越しにまさかのリブートへ歩み出した。原作第1話から物語を再構築する“REBOOTプロジェクト”は東映アニメーションによる完全新作で、「ボーダー入隊編」「近界民(ネイバー)大規模侵攻編」「B級ランク戦 開始編」が新たに描き直されることが発表されている。詳細は12月20日の「ジャンプフェスタ2026」で明かされる予定だというが、ティザービジュアルにはブラックトリガーを構える空閑遊真の姿が描かれ、ファンの期待値も高まるばかりだ。


 2014年から続くアニメシリーズは1期・2期・3期と重ねてきたが、特に1期はあまりにアニメ化が早すぎたことで原作のストック不足が生じ、不完全燃焼感を抱いたファンも多かったとされる。その意味で今回のリブートは、単なるリメイクにとどまらず、“本来こうあるべきだった”を示す意味も持つ。

 それにしても、なぜ10年も経った作品のリブートがこれほど注目を浴びているのか。それは『ワールドトリガー』が、少年漫画の“王道”とはまったく逆方向に突き進んでいるのに、むしろそこが最大の面白さになっているという独特の魅力を持っているからに他ならない。

 一般的な少年漫画といえば、主人公の成長、圧倒的強敵との戦い、勝利の爽快感、そして仲間との絆――これらが一直線に積み重なっていくのが王道だ。しかし、『ワールドトリガー』は最序盤こそネイバーの襲来やブラックトリガー争奪戦といった派手な戦闘が描かれるものの、その後は驚くほど“地味”で“頭脳戦”に振り切った展開になっていく。つまり、序盤で最大級のスケールを描いた後、あえてレベルを下げていくという珍しい流れをとっているのだ。

 ブラックトリガー争奪戦ではS級隊員同士の激突、大規模侵攻では街全体を巻き込む総力戦と、圧倒的な破壊力と緊張感で読者を引き込む。だが、その後は突如「B級ランク戦」という同じ組織内での昇格をかけたリーグ戦に移行し、敵は“ネイバー”ではなく“味方の別部隊”に変わる。普通の作品ならストーリーがインフレ化していくところだが、『ワールドトリガー』はあえて逆を行き、その範囲で徹底的に戦術特化の面白さを突き詰めていく。ここが最大の異色性であり、読者にとっては“縮小しているのに面白さは増していく”不思議な体験になる。

 ともあれ戦闘はとにかく緻密で、隊ごとの戦術や個人の能力、立体的なマップ構成、索敵と位置取り、敵の心理を読むフェイクや誘導まで、読み解く要素が異常に多い。1つの作戦会議だけで1〜2話を使うことも珍しくなく、見る側は「この一手は何を狙っているのか」「どんなカウンターがあるのか」と思考しながら読み進めることになる。つまり“スカッと勝つ”のではなく“戦略の読み合いに没頭する”のが『ワールドトリガー』の醍醐味で、ここが王道少年漫画とはまったく違うポイントだ。

 特に玉狛第2(三雲隊)の戦いは、隊員の個性と役割の組み合わせが巧妙で、スピード特化の空閑、戦術を積み重ね戦う三雲修、戦闘員としては致命的な弱点を持つも一撃必殺の威力を持つスナイパーの雨取千佳というアンバランスなチームが、知恵と工夫で格上を倒すという構造が続く。しかも勝利してもド派手な決着シーンはほとんどなく、むしろ微差や詰めの一手でひっくり返すような戦いばかりで、ここに“勝った! やった!”ではなく“なるほどそう来たか……”という読後感が生まれる。こうした“盛り上がり方が地味なのに中毒性が高い”という点こそ、『ワールドトリガー』に多くのファンが“沼る”理由だろう。

 キャラクターの描き方もまた逆。主人公の一人である修は強くない。むしろ“弱い主人公”という少年漫画ではレアな設定で、才能型のヒーローとは真逆の成長線を持つ。遊真が圧倒的に強いにもかかわらず、物語の中心にいるのは修であり、彼は能力で勝つのではなく積み重ねた知識と努力、そして仲間の力を最大限に活かすことで戦う。多くの漫画では「主人公は特別な力を手に入れて覚醒する」という展開が王道だが、『ワールドトリガー』は「努力しても強くならないけれど、それでも戦い方を工夫して勝つ」というありえないほど逆張りの成長物語を描く。この“等身大の努力が戦術に変わる”構造は、他では見られない魅力で、修に感情移入させられる理由になっている。

 ブラックトリガー争奪戦も大規模侵攻もB級ランク戦も、ファンの間では「令和の作画で見たい名シーンの宝庫」として語られており、特に戦略の読み合いが重視されるB級戦は、現代の作画と演出によってさらに分かりやすく、臨場感あふれる形で描かれることだろう。
 
 12月20日の続報を待つファンの心の中では、すでに「ゲート発生」が始まっており、『ワールドトリガー』が再び世界を射抜くことになりそうだ。

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