キスマイ・宮田のラノベ続編『境界のメロディ2』はバンドとは何かを問う物語に アニメCVの内田雄馬、佐久間大介らにも期待
Kis-My-Ft2のメンバーで、俳優や声優としても活躍する宮田俊哉。初挑戦したライトノベルの『境界のメロディ』(メディアワークス文庫)が評判になり、熱望していたアニメ化も決まって作家としての活動にも注目が集まっている。11月25日には待望の新刊『境界のメロディ2』(メディアワークス文庫)を刊行。後悔しないためにもやりたいことをやり抜く大切さを教えてくれた物語の続編では、いったい何が語られているのか?
天野カイが蘇った?
交通事故で死んでしまった天野カイという少年が、3年後に「忘れ物、取りにきた」と言って蘇り、生前いっしょに音楽活動をしていた弦巻キョウスケや、父親で世界的シンガーの天野ジン、親しくしていたサムライアーというバンドのメンバーが心に抱えていいた欠落を埋め、前に踏み出せるようにしていく。そんなストーリーが感動と感涙を誘った『境界のメロディ』の続編『境界のメロディ2』は、見失っていた方向性を取り戻したサムライアーが、日本を出てイギリスに武者修行に出かけるところから幕を開ける。
ロンドンに到着して意気軒昂なサムライアーは、世界を目指してバンド名までSOME LIARSに変えると言い出し、そのままスタジオに入ってセッションを楽しむ。これぞ音楽バカといった雰囲気。その後、パブに乗り込み名物のフィッシュ&チップスを食べ、ペールエールのビールを大きなジョッキから流し込む展開は、グルメというほどのものではないものの、旅先で食べる料理の美味しさというものを思い出させてくれる。
お腹も満たされ、あとは許可をもらって路上に繰り出し、ロンドンっ子たちに演奏を聴かせるだけという前途洋々の状態にあったかというと、SOME LIARSのメンバーでベースのミノルには少しモヤモヤとした気持ちがあった。「なにが原因なんだろう……」。そう思い、ホテルに向かうギターボーカルのタケシ、ドラムのマコトを見送ってひとり街を歩き始めたミノルの耳に、日本の三味線の音が届いて来た。気になって近づいた先に見たのは、死んだはずのカイにそっくりの人物だった。
まさかのカイ復活? そんな想像にある答えが示された後、物語はミノルがカイにそっくりなカインと少しだけセッションして、「――ミノルのベースは面白くない」と告げられるという重要なシーンへとたどり着く。「ミノルってさ、空気読んで生きているでしょ? 状況に合わせて取り繕ってない? そんな音に感じた」。そんなカインのストレート過ぎる言葉が、ミノルが抱えていたモヤモヤの奥にあった確信めいたものをえぐりだす。
SOME LIARSは“ワンマンバンド”なのか
翌日、ピカデリーサーカスで演奏したSOME LIARSの音楽を聴いて近づいて来た英国紳士が、ギターボーカルのタケシに「君がSOME LIARSさんかな?」と尋ねる。どういう意味? 「てっきり他の二人はサポートメンバーなのかと思っていたよ」。そういう意味。圧倒的な歌唱力を持つ上に観客への目配りも忘れないタケシの強烈な存在感に、ドラムもベースもソロシンガーに合わせているだけのサポートメンバーだと思われた。ミノルのモヤモヤも、そんなバンドにおける自分の立ち位置にあった。
楽曲作りの能力が突出していたり、圧倒的なパフォーマンスを見せることができたりするひとりを中心に、メンバーが集まって活動を続けているバンドは別に珍しくはない。突出したひとりだけが昔から使ってきた名前を持ちつつ、ライブなどではサポートメンバーが入って演奏するようなバンドも存在する。バンドと言えるかどうかは難しいところだが、バンドとして始まった以上は名前を守り続けたいという思いの表れだとは見て取れる。
けれども、SOME LIARSはそうした“ワンマン”のバンドではない。3人が同じだけの熱量を持って音楽と向き合っている。メジャーになるためにならやりたくない音楽でもやらなくてはいけないのかといった選択にぶつかりながら、答えを見つけて抜け出しチャンスを掴んだ。それだけに結束力も硬いと思っていた自分たちのバンド活動を、通りがかりの英国紳士に否定され、カインからも問題があることを指摘された。
カインはタケシのことも、「自分のことだけ考えて演ってる感じ」と鋭く切る。上手いだけではいけない。支えているだけではつまらない。だったらどうすればバンドになるのか? そもそもバンドとは何なのか? みなで音楽を楽しみたいとバンドを組んで活動している人なら気になる問いが繰り出され、その答えをどうやって見つけるのかを追っていく展開に、ついついページを繰らされてしまう。そんな続編だ。
『ガルクラ』『バンドリ』『ぼざろ』らガーズルバンド作品に続けるか
見渡すとアニメの世界では、売れるために自分を曲げたくなかった女性ギタリストが、自分に嘘をつきたくない少女と出会い、仲間を集めてバンドを作る『ガールズバンドクライ』という作品が人気となって、バンドの生き様というものを見せてくれている。『BanG Dream ! It’s MyGO!!!!!』や『BanG Dream! Ave Mujica』といったアニメも、紆余曲折を経てバンドがバンドとして結束していく様を描いて、世の音楽好きたちを楽しませている。
漫画では、はまじあきによるシリーズ最新巻『ぼっち・ざ・ろっく!8』(芳文社)が出て、プロ活動を始めた結束バンドが直面するセールスやツアーといった課題が描かれる。『境界のメロディ2』は、そうしたガールズバンドもののアニメや漫画が先行して話題となっている最近のポップカルチャーの世界に、ライトノベル発で男性のバンドものとして切り込んでくれている。
三味線を弾くカイン自身にも、バンドという形態の中で本当に居場所があるのかといった迷いを感じさせられていた描写がある。どれだけ自分たちが正しいと信じていても、売れるためには曲げなくてはいけない思いがあった時にどうするのか? そんな問いに出す答えを自分なりに考えたくなる。
不思議な存在だったカイと同じような秘密がカインにもあるようで、そこから浮かんでくる切なさに涙させられるところもある『境界のメロディ2』。SOME LIARSがグンと抜け出し未来を切り開いていくストーリーに感動した後には、キョウスケにももっと活躍の場が欲しいと思えてくる。次なる続編が書かれるとしたらそこにスポットが当たるのだろうか。それとも別の登場人物たちが現れ、同じように音楽に迷い壁にぶち当たりながら突破してく物語になるのだろうか。先が気になる。
その前に、まずは『境界のメロディ』のTVアニメがいつから始まるのかにファンの関心は向きそうだ。カイをSnow Manの佐久間大介、キョウスケを『【推しの子】』の雨宮吾郎役で知られる伊東健人が演じ、SOME LIARSはタケシを内田雄馬、マコトを武内駿輔、ミノルを斉藤壮馬というトップ級のイケボの持ち主たちが演じることで、今からファンをドキドキさせている。すでにドラマCDでも聞かせてくれているその役柄を、映像もついた状況で観られるのだから期待せずにはいられない。音楽に感動し物語に感涙するアニメになりそうだ。