日本はなぜ"IP大国”なのか? 実写ドラマ『ONE PIECE』エグゼクティブプロデューサーが語る、日本の現状とその未来
世界中から映画が集まる第38回東京国際映画祭との併催で、世界中の映像作品を取引するマーケット「TIFFCOM」が10月29日から31日まで開催。初日となる29日には、キーノートスピーチとしてNetflixシリーズ実写ドラマ『ONE PIECE』にエグゼクティブプロデューサーとして参画するフィロソフィアの藤村哲哉代表取締役が登壇し、日本の漫画やアニメ、ゲームといったIP(知的財産)が、これから世界でいっそう活発に展開される未来を示した。
日本がIP大国となった3つの理由
「漫画の存在が(日本を)IP大国にした」。世界の映像プロデューサーと日本のIPホルダーを繋ぐ活動をフィロソフィアで行っている藤村哲哉代表取締役は、こう話して日本で過去から現在まで生み出されてきた漫画作品の豊穣さが、『鬼滅の刃』や『ダンダダン』といったアニメが世界で大ヒットしている現状の根っこにあることを指摘した。
日本はIP大国だ。藤村代表取締役が関わったドラマ版の『ONE PIECE』や『カウボーイビバップ』、実写版『ゴースト・イン・ザ・シェル』はいずれも日本の漫画やアニメが発端となった作品で、原作の方は長く世界中で親しまれて来た。日本だけでなく世界中で大ヒットしているアニメ映画『劇場版「鬼滅の刃」無限城編第一章 猗窩座再来』も劇場版『チェンソーマン レゼ篇』も、漫画からアニメとなっていずれも世界中で人気を博してきた。
ゲームの『スーパーマリオブラザーズ』や『ソニック・ザ・ヘッジホッグ』が元となった映画も同様に熱い支持を集めて来た。映画発のIPとなる『ゴジラ』も、ハリウッド版の大ヒットを経て日本の山崎貴監督が手がけた『ゴジラ-1.0』が第96回アカデミー賞で視覚効果賞を受賞する栄誉を得た。
日本がこれだけのIP大国になったのはなぜなのか。藤村代表取締役は3つの理由を挙げた。
ひとつは、「日本は世界最大の漫画/アニメ大国であること」。特に漫画は「漫画雑誌という世界で唯一無二のビジネスモデルが普及した」ことで、常に新しい才能や新しい作品が生み出され、その中から広い支持を集める作品が生まれてくる可能性が高いことが示された。そして、「人気漫画をアニメ化するというもうひとつのビジネスモデルが確立された」ことも、漫画として内容の面白さが確認された作品を、アニメによってさらに広く届けて盛り上がる機運を作った。
「ヒットした漫画がアニメとしてどんどん作られるという構図は、日本に多くのアニメーションスタジオができるきっかけとなり、世界最多のアニメを制作する国になっていった。漫画から生まれた素晴らしいキャラクターと素晴らしいストーリーが根っこにあって、それが素晴らしいアニメになって世界に通用して出て行った」。その結果が、今の日本IPの世界的な普及と浸透を生み出した。
ふたつめは、「アニメの世界配信による知名度と人気の確立」だ。これは、ネットフリックスやアマゾン・プライム・ビデオ、クランチロールといった配信プラットフォームが誕生して世界にネットワークを広げる中で、日本のアニメや特撮、ドラマなどを展開していったことを指す。「ネットフリックスが言うように、アニメはもはやローカルコンテンツではなくグローバルコンテンツだ」。こうなると、次の作品を求めて日本のIPへの関心が向かい、新しい展開に繋がる流れもできてくる。
みっつめが、「日本が世界有数のゲーム大国であること」。いわずとしれた『ポケットモンスター』の世界的な人気に限らず、任天堂なら『マリオ』『ゼルダ』が世界で遊ばれ、ソニーのプレイステーション向けゲームからは、テレビドラマ化されて好評を得てシーズン2の製作も決まった『The Last of Us』のようなゲームが送り出されてきた。カプコンの『バイオハザード』シリーズは以前から何度も実写映画化かされている。今後はコナミの『メタルギアソリッド』も実写版が登場してくる見込みだ。
「ハリウッドのメジャースタジオと人間関係を作る」藤村哲哉の功績
藤村代表取締役が、製作が発表されているものとして上げた作品数は60を超え、「話し合われているだけのものも含めれば100は超える」といった見通しもある。日本IPの盛り上がりをバックに取引が増えれば、さらに多くの作品が登場してくる可能性も低くはない。もちろん、「すべてが実現するわけではない」のがハリウッドや北米の映像ビジネスの現実。そこでより実現性の高いディールを行うために、藤村代表取締役やフィロソフィアの活動が必要となってくる。
1990年代に藤村哲哉という名前を聞いたことがある人は、映画配給のギャガ・コミュニケーションズ(現在のギャガ)の創業者としてのものだっただろう。ジム・キャリー主演の『マスク』やブラッド・ピット人気を決定づけた『セブン』、スティーブン・キング原作の『グリーンマイル』といった大作や話題作を次々と日本に持ち込んで、洋画のムーブメントを打ち立てた。
2005年にギャガから退いた後、「日本の漫画やアニメ、ゲームなどのコンテンツの知名度が世界的に上がっていけば、源泉としての価値が生まれると考え、日本のコンテンツホルダーと海外の映像プロデューサーを結びつけるニーズが出てくる」と踏んだ。そこで立ち上げたのがフィロソフィアだった。
ただ、いきなり日本のコンテンツホルダーに権利をもらいに行っても、実績がなければ与えてはもらえない。そこで「ハリウッドのトッププロデューサー、誰でも知っている映画を作っていたり、ハリウッドのメジャースタジオとファーストルック(最初に企画を見せる権利)契約をしていたりするプロデューサーと人間関係を作る」ことを考え、ネットワークを広げていく中でアメリカンコミックのマーベルを買い取り、マーベル・スタジオを設立して大ヒット作を幾つも送り出したアヴィ・アラッドと知り合った。
相談を受けたのが、士郎正宗の漫画『攻殻機動隊』の実写映画化。これを藤村代表取締役は企画に5年ほどかけ、製作にも長い時間をかけて2017年にスカーレット・ヨハンソン主演の実写版『ゴースト・イン・ザ・シェル』として送りだした。一方で、これからはテレビの時代が来るという話を聞いて、テレビプロデューサーのマーティ・アデルスタインと知り合いになった。『プリズン・ブレイク』のプロデューサーで、今はトゥモロー・スタジオのCEOを努めている。このスタジオから生まれたのが実写版の『カウボーイビバップ』であり『ONE PIECE』だ。
大事なのはクリエイターファースト
ここで大切なのが、ただ海外に有力な伝手があるからといって、映像化の契約を結べる訳ではないということだ。「8年か9年前に集英社から『ONE PIECE』の実写化の話が出て、マーティを紹介した。経済的な条件も提案したが、何よりもクリエイティブなビジョンを提案したことで選んでもらえた」と振り返る。こうして始まった企画に、原作者の尾田がエグゼクティブプロデューサーとして参加して、キャストの選定にも関わってファンが喜ぶものに仕立て上げたことが、世界84カ国で1位となる支持の高さに繋がった。
有力スタジオで有名監督なりプロデューサーが関わることも大切だが、「尾田先生ファーストでクリエイティブが作られたことが成功に結びついた」。世界で『ONE PIECE』が愛されているのは原作の漫画が面白く、それをなぞるように映像化されたTVアニメが面白いから。そこに込められた原作者の思いや意図を外すことないように努めることが、日本の人気IPを海外向けに展開していく上で欠かせないことなのかもしれない。
「世界の隅々にまで映像を届けることが可能になった今、世界の人々は国と言語を超えて心を躍らせる魅力的なキャラクターの素晴らしいストーリーを求めている」と藤村代表取締役。「世界最大の埋蔵量を誇る日本IPには素晴らしい未来が待っていて、実写でもアニメでも舞台でも音楽でも、世界に通用するコンテンツを作っていく時代が来ると信じている」。その尖兵となる作品なりIPを、今も日々生み出されている漫画やアニメ、ゲームなどから探す楽しみが、日本に暮らして日本の作品を浴びているファンにはありそうだ。