目黒蓮の実写映画化で注目! 『SAKAMOTO DAYS』は「殺し屋漫画」50年史にどう刻まれる?

 「週刊少年ジャンプ」に連載中の人気漫画『SAKAMOTO DAYS』が目黒蓮主演での実写映画化が決定し、2026年のゴールデンウィークに東宝配給で公開されることが発表された。2020年の連載スタートから全世界累計発行部数は1500万部を突破。テレビアニメ版もNetflixで高い視聴数を記録するなど、国内外で注目を集めている。

 主人公・坂本太郎はかつて伝説の殺し屋であったが突如引退し、結婚と娘の誕生を経て現在は「坂本商店」を営んでいる。公開された実写ビジュアルでは、ふくよかな坂本がカップ麺をすすりつつ弾丸を割り箸で受け止める姿も描かれ、過去の殺し屋としての凄まじい腕前と現在のユーモラスな日常を同時に表現している。


 こうした『SAKAMOTO DAYS』の人気は、50年以上続く「殺し屋漫画」の歴史をたどることで見えてくる。

 日本の漫画史において、法や社会の枠組みでは裁けない悪を主人公が制裁するというテーマは長く読者を惹きつけてきた。その先駆けといえば、1968年にさいとう・たかをによって連載が開始された『ゴルゴ13』だろう。主人公デューク東郷は、世界一の狙撃手として国家や依頼人からあらゆる任務を請け負い、冷静沈着かつ超人的な腕前でターゲットを仕留める。どのエピソードから読んでも面白く、現在まで続く長期連載にもかかわらず、時事ニュースを取り入れながらハードボイルドな殺し屋漫画としての地位を確立した。

 1980年代には、法の手が届かない悪を制裁するアウトロー的な勧善懲悪漫画が登場する。その代表作が平松伸二の『ブラック・エンジェルズ』(1981~1985年)である。本作の主人公・雪藤洋士は、普段は少年のように温厚であるが、悪に直面すると一転して冷徹な殺し屋となる。武器として自転車のスポークを用いる描写は、平松が当時の時代劇『必殺シリーズ』に影響を受けたアイデアであり、普段は眼鏡を掛けた気の弱い青年が外道の前では一変、冷徹な闇の暗殺者に変わる。「地獄へ落ちろ!!」の決め台詞のインパクトは絶大だった。

 1990年代に入ると、より個性的でダークな殺し屋漫画が登場する。山本英夫の『殺し屋1(イチ)』(1998~2001年)は、元いじめられっ子の青年イチが独特な性的興奮と結びついた殺しの才能を発揮し、暴力団や抗争の中でその能力を示す。主人公の精神的な危うさと暴力世界のリアルな描写が特徴で、読者に強烈な印象を残した。

 また、2000年代にはステレオタイプではない殺し屋が次々に登場。『今日からヒットマン』(2005~2015年)は、食品会社に勤務する平凡なサラリーマンが営業先から帰宅する運転中に凄腕の殺し屋と遭遇したことから、サラリーマンとヒットマンの二重生活を送ることになる。殺し屋漫画にコメディ要素を取り込んだのが、松井優征の『暗殺教室』(2012~16年)だ。地球を破壊する能力を持つ異形の教師と落ちこぼれクラスの生徒たちの師弟物語で、暗殺という行為を通して成長や葛藤を描く「教師漫画」としてのアプローチも斬新だった。女性読者を多く獲得し、実写映画も大ヒットした。

 そして2010年代は、「リアル」「シリアス」が主流に。渡邊ダイスケによる『善悪の屑』(2014~16年)と続編『外道の歌』(2016~23年)では、復讐代行という形で悪人を容赦なく懲らしめる主人公たちの生々しい戦いが描かれ、現実事件を題材にすることでよりリアルな恐怖感を演出。南勝久の『ザ・ファブル』(2014年~連載中)では、天才的殺し屋が1年間一般人として生活する命令を受け、常識知らずの主人公が巻き起こすユーモラスな日常が描かれる一方で、どんな敵でも6秒以内に鮮やかに葬り去る最強ぶりが読者を魅了した。

 さらに近年では、静脈原作、依田瑞稀作画の『マリッジトキシン』(2022年~)が登場。数百年続く殺し屋「毒使い」の末裔・下呂ヒカルが結婚を余儀なくされ、結婚詐欺師の城崎メイをアドバイザーに婚活を進めるという物語で、異能力バトルやアクション、ラブコメなど多彩なエンタメ要素が特徴である。大瀬戸陸の『ねずみの初恋』(2023年~)は、愛を知らずヤクザに育てられた少女・ねずみが、普通の青年・碧と恋に落ち、同棲を始めるが組織に狙われるという切なくも緊張感あふれる物語で、裏社会の残酷さと恋愛描写が巧みに交錯する。

 殺し屋漫画は時代の価値観や読者の嗜好に合わせて変化してきたが、こうした歴史の延長線上にある『SAKAMOTO DAYS』は、アニメや実写映画とメディア展開しつつ、50年以上にわたる殺し屋漫画の系譜に「令和の名作」として名を連ねていくことだろう。

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