コルク代表・佐渡島庸平が考える“魅力的なキャラ”とは? 「僕らは大谷翔平をすごいと思うが友達とは思わない」
電子コミック配信サービス大手の「めちゃコミック」が、漫画コンテスト「めちゃコン」を開催する。応募要項は「新人から連載経験者まで、プロ・アマ問わず」「未発表の完全新作のみ」とオープンで、キャッチコピーは「熱狂を生み出す漫画家に出会いたい」というものだ。近年、電子コミックはオリジナル作品が増えている中、新たな発展、ジャンル拡大のため、新しい才能を発掘するのが狙いだ。
力が入っているのは、審査員の顔ぶれを見てもわかる。まずは「週刊少年ジャンプ」6代目編集長を務め、鳥山明氏や桂正和氏など名だたる漫画家を発掘してきた鳥嶋和彦氏。そして、小学館「週刊少年サンデー」在籍時代に漫画アプリ「マンガワン」を企画し初代編集長を務め、現在は新しいスタイルの漫画制作会社「コミックルーム」を経営する石橋和章氏。さらに「週刊モーニング」在籍時に『ドラゴン桜』(三田紀房)『宇宙兄弟』(小山宙哉)を大ヒットに導き、現在は漫画家をはじめとする作家のエージェント会社「コルク」を経営する佐渡島庸平氏と、まさに漫画の目利きがそろっている。
今回は佐渡島庸平氏にコンテストに対する期待、そしてどんな作家を求めているのかを聞いてみた。
「めちゃコン」で見るポイント
ーー今回は大規模なコンテストになりそうです。審査員の依頼が来たときはどう思いましたか?
佐渡島:僕が出版社を出たときは、これから新しいメディアがいっぱいできて、自由に動いている人と組むことが増えるだろうなと考えてたんです。だから、作家にとってベストなプラットフォームと組むことができる体制をとるために、エージェント会社を作りました。今回、めちゃコミックが世界に出ていける圧倒的なプラットフォームになるという、高い目標と大きい挑戦をしようとしていると聞いて、とてもワクワクしました。
ーー新人の漫画家さんの作品を見るとき、佐渡島さんが重要視しているのは、どんなところでしょう?
佐渡島:わからないところをわからないと言うのが、編集の仕事だと考えています。多くの作家はこんなストーリーと思って描いていても、キャラクターの具体的な感情とか、どうしゃべるのかとか、どんな姿勢でいるのかまでは、あまりわかっていないで描いているんです。たとえば50ページの漫画だったら、ほとんどのページをわからずに描いている。ただ、僕が仕事をしてきた新人の人はその50ページ中、2、3ページだけでも、明確に自分がわかって感情が描けている。それさえあれば、そこを拡大して全ページがわかるようにできるし、すごく伝わる漫画になるんです。自分の感情というものをわかっていて、たとえ少ないページ数でもそれを表現できている。そんな作家に出会いたいです。
ーー先ほどの鳥嶋和彦氏、石橋和章氏との座談会では、魅力的なキャラクターに出会いたいという発言がありました。
佐渡島:たとえば、MLBで活躍している大谷翔平選手。僕らは彼のことをすごいと思っていますが、友達とは思わないんです。きっと10年後も20年後も、彼のことを友達とは思いません。でも、『スラムダンク』の桜木花道は、なんか高校のときの同級生みたいな感じなんです。いいキャラクターって、自分の人生の中に入り込んできてしまうものなんです。『めちゃコン』では、そんなキャラクターと出会いたいです。
ー一そのようなキャラクターを生み出す才能というものがあるとして、それはどのようなものでしょうか?
佐渡島:自分の感情を深堀りできるか、ということだと思います。世の中にある面白さ、正解を掴みにいくんじゃなくて、自分の中にある感情や過去の経験をつかんで、他者がそれを面白いと思うと信じる。その感情や経験と、どれだけ向き合えるかだと思います。
漫画編集者の仕事とは
ーーこれまでたくさんの新人作家の原稿を見てきたと思います。今までで印象的だった作家、作品は?
佐渡島:やっぱり小山宙哉さん(『宇宙兄弟』)であり、羽賀翔一さん(漫画『君たちはどう生きるか』)であり、今日マチ子さん(『みかこさん』)。あとはツジトモさん(『ジャイアント・キリング』)。僕が一緒に仕事をしてきた人たちは強烈な印象がありました。
ーーどういう点が印象的だったのでしょう?
佐渡島:シンプルに心が震えたってことです。きれいではない、絵がまだそこまで上手くないのに心が震えた。料理でたとえると、盛りつけされていないんです。なんか適当な感じのサラダなのに、食べたことのない味。これをちゃんと盛りつけて、きれいなレストランでソムリエがワインと一緒に出したら、ミシュランで星が取れるよって気持ちになりました。
でもレストランを作って、仕入れを安定させてメニューを毎週、変えて工夫したり、ひと皿だけでなく安定しておいしい料理を提供し続けるのは、シェフだけでは難しい。そういうまわりを整えるのが編集の仕事で、ひと皿だけでもおいしい料理を食べると、そこまで一緒にもっていきたいと思うんです。
デジタル化が漫画家にもたらした恩恵
ーー今回の「めちゃコン」は電子コミックのコンテストです。紙のコミックと比べて、電子コミックはどのような点が良いのでしょう?
佐渡島:たとえばコミック雑誌は、定期的に読んでくれるお客様の中からファンを作るという感じです。さっきの料理でたとえると、雑誌というレストラン街に、新しいレストランをオープンしたら、そのレストラン街にいつも来てくれるお客様を、どう自分の店に引き込むかを考えるんです。その店が評判になれば、そのレストラン街に来てくれるお客様も増えるということです。それに対して電子コミックは、SNSとかインターネットのどこかで話題になっていたら来てくれるという、導線が違います。SNSやウェブ広告で興味を持ってくれる人もいれば、めちゃコミックで漫画を読んでいてほかの作品に来てくれる人もいます。紙に比べると、集客方法はより多様だと思います。
ーーそれは作家にとってチャンスが多いということでしょうか?
佐渡島:めちゃコミックがチャンスをより増やそうと、生まれ変わろうとしているので、僕らのような外部の人間が協力しているという感じです。これまでのデジタルプラットフォームでは、そこにいるお客様に似たような作品を紹介、供給してきましたが、これからは新しい作品の提供もするし、外から新しいお客様を呼び込もうと考えています。作品的にも、これまで作れなかった作品が作れる。そういう認識を僕はしています。
ーー作る側にとって、環境がどんどん良くなっていくと考えていいのでしょうか?
佐渡島:実際、以前に比べると、漫画家の数はかなり増えていると感じます。さすがに1億円プレイヤーはそこまで増えていないかもしれませんが、漫画家として生活できている人はすごく増えていて、とてもいいことだと思います。
ーーなにが変わったのでしょう?
佐渡島:まず、デジタルで描けるようになって、作画のスピードが上がりました。サラリーマンをしながらSNSで漫画を描いて稼いでいる人も多いです。今まではアシスタントを雇って人生フルベットで、漫画家以外の人生はあり得ないという感じでしたけど、それは減りました。そこまでの覚悟がなくても、漫画が面白そうだから始めて、だんだんハマっていったり。ネットで漫画を出すことが他者とのコミュニケーションになっていたり、漫画産業全体でいろいろな変化が起こっています。
あと、電子コミックは作品数が貯まれば、紙よりも収入が増えるメリットもあります。作品が貯まるほど、SNSなどで宣伝したときに売ることができる商品が多いので、長くやるほど収入が安定してやりたいことがやれるようになります。
ーー書店ではどうしても置ける作品の数が限られます。
佐渡島:複利の積立じゃないですけど、5年目の作家より20年目の作家のほうが有利な時代だと思います。
ーー作家が長く漫画を描き続けられる、秘訣のようなものはありますか?
佐渡島:結果ではなくプロセスを楽しむことです。漫画を描くことが楽しければ続けられますから。結果が出ないから漫画を描きたくないとなると、そもそも人生っていいときも悪いときもあるので、そこでやる気がなくなってしまいます。悪いときっていうのはあるものなんだ、としておいて、漫画を描く楽しみを追求していくことかが重要だと思います。
ーー作品を見る際に、感情が表現されているかが重要とおっしゃっていました。それでは、どんなタイプの作家に出会いたいですか?
佐渡島:どんなタイプというのはありませんが、結局はエネルギーが強い人が勝つんだと思います。あきらめずにやり続けるにはエネルギーが必要なので、パワフルな人に応募してほしいです。
あとは自分が世界を獲るぞと。ハリウッドの人間が自分にひれ伏すんだ、そんな未来のための手伝いをめちゃコミックがしてくれるんだ、そのぐらい野心がある人がいいです。ちょっと売ろうよぐらいじゃなくて、マーベルやインド映画、中国映画、みんなが欲しがるものを作ってみせる、ぐらいの気持ちできてほしいです。
■審査過程から受賞作決定まで随時更新! 「めちゃコン」特集はこちら!:https://realsound.jp/book/2025/10/post-2184292.html
■鳥嶋和彦氏インタビュー記事:https://realsound.jp/book/2025/10/post-2168922.html
■石橋和章氏インタビュー記事:https://realsound.jp/book/2025/10/post-2168901.html