角田光代の最新小説『神さまショッピング』は信仰をテーマに描いた短編集「どこも信者でごった返しています」

 角田光代の最新小説『神さまショッピング』が9月25日(木)に新潮社より発売された。

 本作は「信じる」という行為を主題に、世界各地の聖地や宗教的な場所を舞台にした八つの物語を収める短篇集となっている。舞台は神楽坂、ミャンマー、スリランカ、雑司ヶ谷、香港のレパルスベイ、インドのガンジス川など、現実に存在する土地。そこに集う人々の切実な祈りや願いを描き出すことで、現代に生きる人間が抱える孤独や欲望、そして救済への希求を浮かび上がらせる。

 登場するのは、夫にも誰にも告げずにスリランカへ旅立つ美津紀。彼女が祈るのは、善き願いも悪しき願いも叶えるとされる神に向けた、誰にも言えない秘密の願いだ。また、鶴子は縁を断ち切りたい相手の存在に追い詰められ、京都の強力な霊験を持つとされる神社へ赴く。そこに行けば許され、解き放たれるのではないかと信じる思いにすがる姿が描かれる。さらに吉乃は思い詰めた末に寺院や教会を巡り、最終的にパリの奇跡の教会にたどり着く。彼女の旅は、救いを求めて彷徨う人間の心の象徴として描かれる。

 「どこへ行けば、願いは叶うのだろう」。本作に登場する八人の人物は、それぞれが切実な動機に突き動かされ、国内外の聖地を訪ね歩く。角田は、誰もが不安や不満を抱え、何かにすがりたいと願う現代において、「私のための神さま」を求める人々の姿を冷静に描写する。旅行記のような臨場感と、人間の内面をえぐる小説的洞察とが交差する一冊となっている。『神さまショッピング』は、信仰と救済、願望と執着といった普遍的なテーマを問いかける短篇集として、多くの読者に強い余韻を残す作品となるだろう。

角田光代 コメント

私は聖地マニアで、各国の聖地をかなり訪れているのですが、どこも信者でごった返しています。神秘体験によってではなく、人々の俗な熱狂によって、神さまはいるんだ、と何度も思わされました。日本人は特定の宗教を持たない、とよく言われますが、不特定の何かはかなり強く信じているのではないかと私は思います。その「何か」にあてはまるものをさがし歩く人たちの姿を、小説にしたいと思いました。
角田光代

あらすじ

幸せになれますように。あの人にいなくなって欲しい。寿命を延ばして下さい。縁が切れますように――。誰にも言えない願いを胸に、ミャンマー、神楽坂、レパルスベイ、雑司ヶ谷、ガンジス川。どこへ行けば、願いは叶うのだろう。誰もが何かにすがりたい今の時代に、私のための神さまを求める8つの短篇集。

■著者紹介:角田光代(かくた・みつよ)
1967年神奈川県生れ。90年「幸福な遊戯」で海燕新人文学賞を受賞しデビュー。96年『まどろむ夜のUFO』で野間文芸新人賞、2003年『空中庭園』で婦人公論文芸賞、05年『対岸の彼女』で直木賞、06年「ロック母」で川端康成文学賞、07年『八日目の蝉』で中央公論文芸賞、11年『ツリーハウス』で伊藤整文学賞、12年『紙の月』で柴田錬三郎賞、『かなたの子』で泉鏡花文学賞、14年『私のなかの彼女』で河合隼雄物語賞、21年『源氏物語』(全3巻)訳で読売文学賞(研究・翻訳賞)、25年『方舟を燃やす』で吉川英治文学賞を受賞。著書に『キッドナップ・ツアー』『くまちゃん』『笹の舟で海をわたる』『坂の途中の家』『タラント』他エッセイなど多数。

■書誌情報
『神さまショッピング』
著者:角田光代
価格:1,760円(税込)
発売日:2025年9月25日
出版社:新潮社

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