『ハイキュー!!』の「思い出なんかいらん」戦略とは? ファンブックで描かれる、現在進行形の選手達の姿

 2020年7月、8年半に渡る連載に幕を閉じた『ハイキュー!!』(古舘春一/集英社)。連載終了から数年が経過した今も尚、現在進行形で愛され続けるバレーボールを題材にした作品だ。

 2024年2月に発売された『ハイキュー!! magazine 2024 FEBRUARY』に続いて約1年半振りの刊行となった『ハイキュー!! magazine 2025 AUGUST』は、作者の古舘春一描き下ろしのカバーイラストが華を添える。30歳を迎え円熟味を増した作中屈指の人気キャラ、及川徹、木兎光太郎、牛島若利の3名の2025年現在の姿が描かれている。

 圧倒的な個性を持つ3名が30歳という節目を迎えた今、それぞれどのような形で成長を遂げてきたのか。最終45巻のさらに先の選手達の人生に迫れる構成となっている点は見逃せないポイントだ。

 本誌では「本人へのインタビュー」に加え、それぞれに近しい関係者の証言として登場する人物達も、かつてはチームメイトとして共に戦った懐かしの面々だ。未収録イラストも収録されているほか、紙版には両面特製ポスター、カバーイラスト&モチーフステッカーに「ハイキュー!!バボカ!!BREAK」 スペシャルカードとして日向翔陽と影山飛雄のレアカードが特典として封入されていることも見逃せない。

 完結から5年を迎えてなお褪せず、よりその色を濃くしていることを体感できる『ハイキュー!! magazine 2025 AUGUST』の魅力に迫っていきたい。

今この瞬間の選手の躍動を体感

 本誌で最も注目したいのは、やはり3選手にスポットを当てたインタビュー企画だろう。
梟谷学園のエースとして春高準優勝を果たした木兎光太郎は所属するMSBYブラックジャッカルでプロ13年目を迎えた。表紙イラストで木兎が立派な白髭を蓄えていたことに衝撃を受けた読者も多いことだろう。

 高校時代は日向・影山コンビの絶対的な壁として県予選の決勝で対峙した白鳥沢学園の大エース牛島若利はポーランドに移籍している。現実、でも国際バレーボール連盟の発表する世界ランキング1位に君臨する王者であるポーランド(2025年9月2日時点)のリーグに挑戦していることも王者の風格漂う牛島らしい選択だ。バレーボール技術の向上のみならず、競技の普及にも貢献したいとインタビューで語る牛島にはさらに今後の活躍への期待感が膨らんでくるというものだ。

 アルゼンチンに帰化した及川徹はアルゼンチン代表として2021年東京五輪に出場し、現在はアルゼンチンのトップのチームへ移籍を果たし、レギュラーセッターとしてプレーしていることがインタビューから知れる。

 まるで本当に日本のトップレベルでプレーする選手達が海外で活躍するニュースを聞いているような感覚に陥るのが『ハイキュー!!magazine』の魅力なのだ。

『ハイキュー!!』が展開するのは現在進行形の「思い出なんかいらん」戦略?

 『ハイキュー!!』に登場した選手達が年を重ねながら活躍の場を世界に移し、輝きを放つ様を今もなおファンが追いかけることができるのはバレーボールというスポーツを題材にした作品だからこそ実現可能な試みだろう。原作の完結を迎えても今尚、彼らの物語はまだ続いているのだ。

 また『ハイキュー!!』本編の数々の激闘の舞台となった仙台市体育館が2025年5月21日より改修工事が始まり、約2年間閉館することとなった。40年の長きに渡って愛された『ハイキュー!!』の聖地に感謝を込めて2025年5月4日・5日に開催された「ありがとう!!仙台市体育館」イベントレポートの模様も本誌に掲載されている。詰まりに詰まった作品の思い出を振り返ろうと多くの来場者が訪れた。

 完結作品の思い出に浸ることも勿論楽しみ方の1つだが、ここはあえて『ハイキュー!!』の個性派セッター宮侑の所属した稲荷崎高校バレーボール部の垂れ幕の言葉を借りて「思い出なんかいらん」が本作のモットーなのだと高らかに宣言したい。

 過去の経験を血肉にして、前に進むべき「今」こそが最高であり最前線なのだと『ハイキュー!!magazine AUGUST』はそれを伝えてくれるのだ。ファンは勿論、ファンならずとも手にとって欲しい珠玉の一冊を堪能して欲しい。

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