【漫画】通学、それは学生たちの仁義なき戦いーー通学風景をコミカルに描いた『ツーガク・ド・ランス』が笑える

 標高250mの高台にそびえ立つ乱州(らんす)中学校。その通学路で行われるレースを描いた漫画『ツーガク・ド・ランス』が2025年7月に各SNSで投稿された。

 ランキング上位の生徒は壁を走ったりなど、各々の個性を発揮しながら死闘(?)を繰り広げる。通学することを真剣に競う男子中学生の姿は、少し可笑しさを感じつつも、たしかに胸を熱くさせる。

 作者・初瀬川玉さん(@mARTtypeA)によると本作を創作した背景には息子の存在があったという。通学路のモデル、作品に込めた思いなど、話を聞いた。(あんどうまこと)

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『ツーガク・ド・ランス』(初瀬川玉)

ーー本作を創作したきっかけを教えてください。

初瀬川玉(以下、初瀬川):本作の直前に描いた漫画が男性向けの青年漫画でした。小学生の息子には見せづらい内容だったので、息子も読めるコメディを描きたいなと思い本作を描きました。

 私の家は小学校・中学校の近くにあり、こどもと一緒に通学路を歩いたりしています。起伏の多い通学路なので「この通学路を漫画で描いたら面白いのでは?」と思い、通学路を舞台にしました。

ーー本作には中学生の男の子ばかり登場しています。

初瀬川:大人から見て「くだらない」と思ってしまうことを、真剣に取り組んでいる息子を見ていると「男の子って可愛いな」と思います。どうやったら漫画で男の子の可愛らしさを表現できるかと考えたとき、中二病的な描写や少し勘違いをしている様子を入れることで男の子らしさが出るかなと思いました。

 男性の読者が共感できることはもちろん、女性の読者も見て「この子たち可愛い」「応援したいな」と思えるような中学生を意識しながら描きました。

ーー通学路の風景が印象的でした。

初瀬川:通学路自体は神奈川県川崎市の風景をベースにしており、私がよく行く江ノ島や、高いところにある岐阜城などを参考にしながら描きました。

ーー本作を描くなかで印象に残っているシーンは?

初瀬川:本作では元気な男の子を描くことと共に、バトル漫画のテイストを前面に出したいと思っていました。そのなかでも足立くん(ニュートン)が壁を忍者のように走るシーンは、体育会系な彼を表現できたのでとくに気に入っています。また足立くんとともに標高の高いところから見た街の風景もよく描けたかなと思います。

ーー最後のページで描かれた、教室の外の風景は夏らしさを感じるものでした。

初瀬川:当初、2人が戦ってる最中はアジサイの咲く6月頃のイメージでした。ただ「ツーガク・ド・ランス」は1年を通して行われていること、試合を経て2人が仲良くなったことなど、時間の経過を表現するために最後のコマで夏の風景を描きました。

 森や山、セミといった夏の自然を表現するために教室の外が見えるアングルにしつつ「ニュートン」と名乗っているのに理科と数学が苦手という足立くんのギャップも表現したかったです。

ーー本作の終盤に登場した三浦さん(メイデン)について教えてください。

初瀬川:三浦さんは「ツーガク・ド・ランス」の起源となった乱州神社の宮司の長男であり、巫女服を着て神社の掃除をしているキャラクターです。本作の主要なキャラクターは基本的に男の子しか出さないと決めていたので、三浦さんも男の子として描きました。

 三浦さんの神社は町おこしとしてお祭りの際などに山車を引っ張ることがあります。その人員を確保するためにもレースに参加して、仲間を引き入れているという設定があります。

 「ツーガク・ド・ランス」には400人程の参加者がいて、上位のキャラクターには構想があるので続きとなる作品を描きたいです。

ーー漫画を描き始めたきっかけを教えてください。

初瀬川:小学生の頃から「自分のキャラクターがフィギュアになったらいいな」とか「作品がアニメ化されたらいいな」という願望がありました。中学生の頃に漫画を描いてみようと思ったのですが、Gペンで描こうとしたら定規と紙の間にインクが溜まってしまい、枠線すらうまく描けなくて……。キャラクターを描く以前に漫画を描くことを諦めてしまいました。

 「漫画は選ばれた者しか描けない」と思い漫画から距離を取っていたのですが、最近になって絵を描いてみたいと思って。元々グラフィックデザイナーをやってたので、仕事上でイメージやラフスケッチなどを描く機会はあり、デジタルソフトを使いながらイラスト作品を描くようになりました。

 ただイラストを描き始めたときにAIの画像生成サービスが流行し始めたため、漫画だったらAIにはできないことがありそうだと思い、1年程前から漫画を描き始めました。

ーー漫画制作を始めて1年が経つなか、創作への思いについて教えてください。

初瀬川:グラフィックデザイナーのあとに玩具メーカーで働いていたのですが、当時お付き合いのあったイラストレーターさんの作品がアニメ化されて、とても驚きました。今ではフィギュア化や映画化もされています。自分も自身の作品がアニメ化されたい、キャラクターがフィギュア化されたいという思いが半分はあります。

 もう半分は息子に父である自分を誇ってほしい、息子に自慢したいという気持ちがあります。私は漫画を描くうえで「作品の読者として明確なターゲットを1人決める」という考えがあり、本作の明確なターゲットは息子でした。ただ、まだ小学3年生の息子からしたら本作はむずかしい単語も多かったみたいで……。「わかんないのもあったけど、なんかムリしてるかんじがあっておもしろかった」と言っていました。アニメ化・フィギュア化、息子に自慢する……。どちらも達成できるようにこれからも頑張っていきたいです。

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