又吉直樹×ヨシタケシンスケ「今回は毒を入れました」 ベストセラーの続編『本でした』刊行インタビュー

互いの印象は?「僕が絶対に無理なところを全部やってくださる感覚がある」

――ジャンルは違えど、お二人ともに作家としてご活躍されていますが、お互いのお仕事をどうみていますか?

ヨシタケ:ジャンルが違うから敵にはならないなと思えるので、安心して又吉さんの作品を見ていられます(笑)。一緒に本を作っていても、守備範囲が違うし持っている武器の形も違う。僕が絶対に無理なところを全部やってくださる感覚があるので、すごく安心感があって心強いです。本屋さんに行って又吉さんの本が並んでいるとすごく嬉しくて「一緒に仕事したことがある人なんだぞー!」って周りの人たちに言いたくなります。

――又吉さんは、ヨシタケさんと一緒にお仕事してみて、出会う前の印象が変わったり「実はヨシタケさんってこんな人だったんだ」と思ったりしたことはありましたか?

又吉:僕はもともと、ヨシタケさんの書かれるものってすごく精密やなと感じていたんです。なので、知り合う前も「めっちゃ面白いな」と思って読んでいたし、一緒に作っていてもその印象は変わらないんですけど、世の中にある「定形」みたいな公式に創作をからめていくんじゃなくて、それを崩していくタイプの方だということが共著してみてよく分かりました。

 一つひとつの完成度がとても高くて「ちゃんと作られた面白いもの」という印象だったのですが、実際にお会いしてみると「こんな自由な人だったのか」という感覚になりました。

 でも過去の作品を改めて読むと「この時のこれがあるから、新鮮さや刺激みたいなものが今でもあるんだな」ということが分かります。

ヨシタケ:又吉さんは引き出しが多くて、全てを高いクオリティでやる人なんだろうなと思っていましたが、実際にお仕事をしてみると想像力のポテンシャルが並外れているんですよ。今回のお題も出される数が半端なくて、僕だったらどれだけ一生懸命考えてもこの数は出せないなぁと思います。その計算処理速度と量がずば抜けているし、ただ数がたくさんあるのではなく、全部が一定のクオリティで出せて、語彙力やその言葉に込める空気みたいなのものも別格なんです。見るたびに「なんて恐ろしい子……!」と白目を剥いていました。

又吉:ヨシタケさんにどんなお題を出しても絶対面白いものになって返ってくるのは分かっていたので、気兼ねなくその無茶ぶりができる安心感で、僕もお題を考えるのが面白くて、やりがいがありました。

――お二人にとって「今の自分を作った本」を挙げるとしたら、どんな作品が思い浮かびますか?

ヨシタケ:それを話出したら5時間ぐらいかかってしまうのですが(苦笑)、僕はもともと「本」であればなんでも好きで、中身を読まなくても楽しいんですよ。それを作った人の思いが込められているだけで「尊いな」と思えるんです。もちろん、自分が小さい時に読んで「すごいな、面白いな」と思った本はたくさんあるし、絵本に関して言うと、幼い頃に読んだときは意味が分からなかったけど、大きくなって読んだら意味が分かるようになった体験をして、それが本のすごさだなと思います。

 本自体は何にも変わらないんだけど、読むこちらが変わってくると違うものとして入ってくる。人生で2回、3回と出会うことができる本というもののメディアとしてのすごさは、自分が本に携わるようになってより実感しています。

又吉:「物」としてのかっこよさもありますし、何度も読めるところが本の魅力ですかね。最近は本の値段が上がっていると言われていますが、僕は本来、すごく安いんじゃないかなと、お金がない時から思っていたんです。「なんで本とペヤングだけこんな安いんだよ。中身と値段が合っていないじゃないか」って(笑)。単行本だと一冊2,000円くらいするから、高いっちゃ高いんですけど、内容やデザイン、それに関わっている人の労力や本の中にあるあらゆるものを含めたら相応だと思うんです。

 ヨシタケさんも仰っていたように、本は内容が変わってなくても、自分が読むタイミングで感じ方が全然違うこともあります。あとは、誰も答えてくれないような質問にいきなり答えてくれることがあって、何となく手に取った本の中に前からずっと思っていたことが書かれていることがあるんです。人と話している時も「自分もそう思っていた」とか「なるほどな」と思うことがあるんですけど、その割合は本の方が高いような気がします。そういう瞬間が1冊読んだら2、3回あるし、それが多感で自分が知らないことも多い10代の頃だったら、今よりもめちゃくちゃあった気がするんですよね。そういう意味ではすごく面白い人と遊んでいる感じが読書にはありました。

ヨシタケ:本は一方通行なんですよね。そこでずっと待っていてくれるところがいいところで、開いたページにたまたま何か書いてあったり、その時の自分が勝手に影響を受けたり、受け取り側のその日の気分や体調、年齢によっていろんな形で自分の中に入ってくるという関係性が頼もしいなと感じています。

又吉:僕は昔から同じ本を繰り返し読むのが好きなんです。例えば、ゲームもサッカーも一回やったから終わりじゃなく、何度もやるじゃないですか。本も大体2回か3回は同じ本を読むし、それが習慣化して今も2回ぐらい読むし、映画も2、3回見る癖がついています。

 それに、2回目の方が「物語ってる」んですよ。1回目の目は「感情の目」で、登場人物に共感しつつ、ショッキングなことが起きるとそこからの数行は意識が朦朧としているから、感情で読んでしまっている。2回目はちょっと落ち着くから「あれ、こんなところあったっけ?」と、大きな出来事の後のくだりでちょっと展開が変わるところも見えてくる。3回目になってくると、全部が同じ平地でいろんな感覚が見えてくるんです。それを繰り返していると、読んだ分だけどんどん目が増えていって、小説が生き物みたいになって、もう訳が分からなくなるんですよ。

ヨシタケ:本は時間軸が固定されていないから、すごく独特なメディアだと思うんです。人によってはすごいスピードで読めたり、1文字も進まなかったり。それだけ自分の体調や器の大きさが反映されているので、自分のコンディションが一番分かるのが「本」なのかなと思います。

▪️著書プロフィール

◎又吉直樹(またよし・なおき)

1980年大阪府寝屋川市生まれ。吉本興業所属。2003年にお笑いコンビ「ピース」を結成。2015年に本格的な小説デビュー作『火花』で第153回芥川賞を受賞。同作は累計発行部数300万部以上のベストセラー。2017年には初の恋愛小説となる『劇場』を発表。2022年4月には初めての新聞連載作『人間』に1万字を超える加筆を加え、文庫化。2023年3月、10年ぶりのエッセイ集となる『月と散文』を発表。他の著書に『東京百景』『第2図書係補佐』など。YouTubeチャンネル【渦】、オフィシャルコミュニティ【月と散文】も話題。

◎ヨシタケシンスケ(よしたけ・しんすけ)

1973年神奈川県生まれ。筑波大学大学院芸術研究科総合造形コース修了。2013年『りんごかもしれない』で絵本作家デビュー。絵本作品『りゆうがあります』『もう ぬげない』、イラスト集『デリカシー体操』、エッセイ『思わず考えちゃう』など多数。MOE絵本屋さん大賞、産経児童出版文化賞美術賞、ニューヨーク・タイムズ最優秀絵本賞、ボローニャ・ラガッツィ賞特別賞などを受賞し、海外でも様々な国で翻訳出版されている。近著は『そういうゲーム』『まてないの』。2児の父。

▪️書誌情報

タイトル:『本でした』
著者:又吉直樹/ヨシタケシンスケ
予価:1,760円(10%税込)
発売:2025年8月5日
書誌ページ:https://www.poplar.co.jp/book/search/result/archive/8008500.html

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