嵐・二宮和也、SUPER EIGHT・村上信五……アイドルが“思想”を語る背景とは? 令和の“大人アイドル“に求められるもの

 アイドルは思考力で魅了する時代に――。嵐・二宮和也の新書『独断と偏見』や、SUPER EIGHT・村上信五の著書『半分論』のスマッシュヒットを見て、そう感じた。『独断と偏見』は初版6万部を発行し、発売当日に早くも重版が決定。『半分論』も初版4万部に加え、即座に5000部の重版がかかった。

 これまで「アイドルの書籍」といえば、彼らのビジュアルを前面に押し出した写真集や、雑誌連載のインタビュー記事と掲載写真をまとめた1冊が定番だった。実際、二宮も昨年11月に雑誌『MORE』で10年間にわたって連載していた写真と文章をまとめた書籍『二宮和也のIt[一途]』を刊行したことも記憶に新しい。そうしたビジュアル中心の書籍に対する需要が根強くある一方で、近年は人生観や社会観を自らの言葉で語るアイドルの人文書や新書が、確かな支持を得てきている印象だ。

 歌って、踊って、演じて、笑いを取る……そんなマルチな活躍が当たり前となった昨今、ファンの眼差しは、ステージやメディアで披露されるパフォーマンスの向こう側にある、より深い「個」としての人間性に向けられるようになっている。

 プロデュースされたキャラクターや表面的な魅力だけでなく、その人自身が「何を思い、どう生きているのか」に関心が集まる時代。知性や価値観、人としての厚みを備えた存在として、アイドルを見つめたいというニーズが高まっている。

 その背景には、コンプライアンス意識の高まりもあるだろう。どんなに華やかな才能を持っていても、社会的な倫理やルールを軽視するような言動に対しては、世間の目が厳しくなってきた。外見至上主義への揺り戻しのような意識もある。もはや、「かわいい」「かっこいい」といった表層的な魅力だけでは、人の心を動かし続けるのが難しい時代なのだ。

 さらに、SNSをはじめとする表現の場の多様化により、かつてのように「アイドルは限られた特別な存在」という印象も薄れてきた。だからこそ、アイドル自身も日々「自分は何者なのか」「どう生きるのか」と自問し、その答えを模索している。その思考のプロセスや、自分の言葉で語られるメッセージもまた、彼らの魅力として受け止められるようになってきた。

 かつては「偶像」として、現実離れした存在だったアイドルが、今では誰よりも地に足のついた発言を求められている。何を考え、その考えをどう行動に移してきたのか。そうした彼らの「本音」には、ビジネス書や自己啓発書に通じるような示唆を感じることもある。

二宮和也『独断と偏見』(集英社新書)

 たとえば、二宮の『独断と偏見』には、第二次世界大戦後のシベリア抑留を描いた映画『ラーゲリより愛を込めて』(2022年公開)の宣伝について、こんな一節がある。「舞台挨拶以外の宣伝では北川(景子)さんと並ばないよ、と意思表示した。本編で会うことが叶わなかったふたりが、宣伝とはいえバラエティ番組とかで会ったらダメだよなぁ、って」と。

 その理由については「『ラーゲリ』は、そうやってエンタメのなかで消費していい作品じゃないと思っていたし、若い世代の人たちに間違って伝わってはいけないと思ったから」とも。一方で、「ただ、お世話になる番組さんからすると、ふたりが揃っているところが見たいっていうのも理解しています」とテレビ番組側の事情にも理解を示す。

 作品への真摯な姿勢、社会への影響に対する配慮、そして制作サイドへの気遣い。表面上は「映画の宣伝をしているだけ」に見える行動の裏に、これほどの思慮深さがあると知れば、より深い共感が生まれるのは自然なことだ。むしろ、こうした姿勢があるからこそ、長く第一線に立ち続けられるのだと、「職業人」としての在り方に学ぶところも多い。

村上信五『半分論』(幻冬舎)

 また、村上信五の『半分論』で語られているのは、「人生において起きるあらゆる事象は、半分くらいに受け止めてしまっても良いのではないか」という哲学だ。たとえば、「どれだけ素晴らしい話でも、まずは信じすぎず、情報を“半分“にしてから自分のなかに落とし込む」こと。また、自分が話すときも、「100%の気持ちで伝えても、相手にはその半分も届いていないかもしれないと思いながら話す」とも述べている。

「自分の話は半分しか伝わっていない」「他人の話は話半分で聞く」――そんなスタンスをアイドルの口から聞くのは、少しドキリとさせられる部分もある。なぜなら、ファンは「思いは通じている」と信じ、「推しのことは全部わかっていたい」と願っているからだ。とはいえ、厳しい芸能界で生き抜いてきた彼らの言葉に、自分自身の人生にも活かせるヒントを得たという喜びもあるのもまた不思議な感覚である。

 きっと、現代のアイドルは「夢を見せる存在」であると同時に、「現実を共に生きる同志」としての期待が集まっているのだろう。膨大な情報が錯綜する現代において、アイドルが何を考え、どんな言葉でそれを語るのか。書籍で魅せる彼らの生き様に共鳴し、分かち合うことこそが、令和の“大人アイドル“たちを「推す」理由になっている。

関連記事