『岸辺露伴は動かない』の世界線はどうなっている? エピソードを分類して見えてきたこと
『岸辺露伴は動かない』第3巻に収録されているのは、「ホットサマー・マーサ」(2022年)、「ドリッピング画法」(2022年)、「ブルスケッタ」(2025年)の3つのエピソード。「ホットサマー・マーサ」で露伴の担当編集である泉京香が「六壁坂」以来に再登場し、原作においてもお馴染みのキャラクターになりつつあるのは、実写ドラマシリーズからの影響であることを荒木自身がコミックスの作者コメントで認めている。そして同時に、それぞれが当時の環境や社会性が滲み出たストーリーであり、露伴のキャラクターとしての成長が描かれていることも。その象徴と言えるのは、コロナ禍を描いた「ホットサマー・マーサ」だろう。
漫画を描く上で、「体験は作品にリアリティを生む」という考えを大事にする露伴にとって、取材のためにその土地へ出掛けることができないコロナ禍の期間は、漫画家としてのスランプを迎えていた。その癒しのために飼いだしたのが、愛犬のバキン。偏屈な印象の強い露伴が珍しく見せた可愛らしい一面と漫画に関しては妥協を許さない漫画家としての矜持を「ホットサマー・マーサ」では写し出している。
「ドリッピング画法」は作中で露伴が話している通りに、「絶望的に厭なエピソード」であり、「地球温暖化」をテーマの一つにしている。不条理なラストであり、そこに明確な答えを出すのは難しく、せめてもの温かな希望となっているのは京香とバキンの存在。正義感溢れる露伴の姿からは、杜王町への愛が感じられる。
「ブルスケッタ」の舞台はハワイ島。「進化」をテーマに、冒頭で露伴と京香が話しているスポーツ選手の話題は、『ジョジョ』好きで知られる大谷翔平へのアンサーとも取れるが、本作のポイントとなっているのは先述した「A」と「C」が合わさったエピソードということだ。実は露伴は第4部以降にも度々登場している。第6部「ストーンオーシャン」にて、「時の加速」の中で原稿をあげた人物として「岸辺露伴」が名前だけだが登場。現在連載中の第9部「The JOJOLands」では、主人公のジョディオ・ジョースターに溶岩を「託す」案内役として露伴が存在している。『荒木飛呂彦の新・漫画術 悪役の作り方』(集英社新書)の中で、荒木は「本当は第八部の舞台だった杜王町にも露伴はずっといて、そこからハワイの別荘に来ている設定です」と解説。露伴の漫画「ピンクダークの少年」の大ファンだというジョディオは、「先生の『4つの円』の短編の話なんて凄く良かったなぁ〜〜」と「ホットサマー・マーサ」を話題にあげている。
「SBR」から『ジョジョ』の世界はパラレルワールドに突入していることを考えると、「The JOJOLands」の露伴は第4部の露伴と同一人物なのか、と一瞬分からなくなってしまうが……連載中の『ジョジョ』シリーズとストーリーラインが密接に関わり合っている「ブルスケッタ」は、『岸辺露伴は動かない』としては「懺悔室」にも近い、そういった意味では原点回帰とも言えるエピソードである。