『岸辺露伴は動かない』の世界線はどうなっている? エピソードを分類して見えてきたこと
映画『岸辺露伴は動かない 懺悔室』の公開に合わせて、関連書籍が多く発売されている。
映画の原作エピソード「懺悔室」のほか、これまで実写ドラマ化されてきた『岸辺露伴は動かない』の全エピソードを掲載した『岸辺露伴ジャンプ』、最新エピソード3編を収めた『岸辺露伴は動かない』第3巻、『岸辺露伴は動かない』を特集した『ジョジョの奇妙な冒険』のムックシリーズ第5弾『JOJO magazine 2025 SUMMER』。これらを通して、改めて『岸辺露伴は動かない』に触れていると、あることが見えてくる。
それは、荒木飛呂彦による当時の作風や世相が色濃く反映されているということだ。
まず、『岸辺露伴ジャンプ』の収録エピソードを例にすると、大きく3つの岸辺露伴の物語に分けられる。
A 『岸辺露伴は動かない』シリーズの短編として描かれたエピソード(例:「懺悔室」「富豪村」など)
B 『岸辺露伴は動かない』を原作とした短編小説(例:「くしゃがら」など)
C 『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズで岸辺露伴が登場するエピソード(例:「チープ・トリック」「ジャンケン小僧がやって来る!」など)
元々、露伴が登場する『ジョジョ』第4部「ダイヤモンドは砕けない」として「C」があり、そこからいわゆる“露伴スピンオフ作品”として1997年に『週刊少年ジャンプ』に初めて掲載されたのが「懺悔室」であり、「A」に当たる。そして、2018年より刊行されている、北國ばらっどをはじめとする数々の作家が執筆しているノベライズシリーズは、原作より派生した「B」とカテゴライズしていいだろう(『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』は限りなく「A」に近い特異なケースとしての「D」といっただろうか)。
『ジョジョ』のシリーズに露伴が初登場したのは1993年。そこから3年後の1997年に『ジョジョ』を休載して、「懺悔室」が掲載された。今回の『JOJO magazine』での特集を参照すると、その当時の『ジョジョ』は第5部「黄金の風」の連載中で、ヴェネツィアを舞台にギアッチョとバトルを繰り広げている辺りだったという。「懺悔室」の舞台もヴェネツィアであり、筆者は作中で描かれるポップコーン対決で浮浪者の怨霊が発するワードの数々が、第5部に登場する“ラスボス”のディアボロ、ひいては第5部全体を彷彿とさせるセリフに思えてならない。それは「絶頂」「運命」「魂」といったキーワードで、これはあくまで筆者の推測になるが憑依する「舌」というモチーフ自体も、「ローリング・ストーンズ」(第5部ラストにスタンド名として登場)のバンドアイコンを連想させる。「懺悔室」掲載時の『ジョジョ』のストーリーがディアボロとのバトル前ということを考えると、ある種今後の展開を少なからず予期したエピソードだったとも言えるのではないだろうか。
「懺悔室」の次に、『岸辺露伴は動かない』シリーズとして描かれたのが、2007年12月に発売された『ジャンプSQ.』掲載の「六壁坂」。当時、荒木が連載していたのが、『ジョジョ』第7部に当たる『スティール・ボール・ラン(『SBR』)』だった。これはどちらかと言えば遊び心に近いのかもしれないが、「六壁坂」ラストで登場する大郷楠宝子の子供のTシャツには「SBR」と描かれている。また、「六壁坂」は『ジャンプSQ.』掲載ということでサスペンス色の強い作風、「D・N・A」(2017年)は『別冊マーガレット』掲載ということで心温まるラストになっていることも特徴的だ。