作家・岸田奈美が驚いた“言語化しない”プナンの生き方 話題書『何も持ってないのに、なんで幸せなんですか?』刊行記念レポ

「この本に出会えて良かった」岸田奈美に刺さったプナンの生き方

イベント終了後もしばらくトークを続けた三人

吉田:ここまで温めてきましたが、岸田さん…この本の感想をおうかがいしてもいいですか?

岸田:一言で表すと…人生がとても肯定されました。というのも私の婚約者が、京都で300年間続く、バチクソ田舎にあるお寺の僧侶なんですね。檀家さんが少ないし、お父様がご健在だから、彼はほとんどすることがないんです。でも、心からの僧侶というか、本当に生きているだけで楽しいみたいな人で。めっちゃ優しいし、ダウン症の弟への対応も、こんなにフラットな人がいるのかって驚くほど。

 ただ、資本主義社会でお金を稼ぐ才能がゼロなんですよ。なぜかというと、いい人すぎて、お寺にいたるだけで檀家さんが野菜とか肉とかを持って来てくれるから。生まれてこの方、自分でご飯を買ったことがないんです。

吉田:プナンじゃないですか!

岸田:働かないし、かといってゴロゴロもしないし、お金も使わないんですよ。ただただその日に起きて、楽しいことをして眠るっていう人で。外に行くだけで、お菓子をもらって帰って来るんです。私はずっと、この人をどうやって知人に紹介すればいいかわからなかったんですよ。

吉田:聞けば聞くほどプナンですね。

岸田:うちの弟も同じようなもので、この社会でお金を稼ぐことはできないし、力を借りないと生きていけない人間なんです。これまで、弟や婚約者のことを説明するときに、どうしても言い訳くさくなってしまっていたんですね。いいやつだから、とか枕詞が必要だった。

 そうやってモヤモヤしていた時に、『なにもた』でプナンを知って、「人間の本能として彼らが正しい。彼らが始祖だ」って言える武器を手に入れることができた気がしたんです。なので、この本に出会えて良かったと心から思います。

書籍情報

『何も持ってないのに、なんで幸せなんですか?──人類学が教えてくれる自由でラクな生き方』

著者:奥野 克巳、吉田 尚記
価格:1,980円(税込)
発売日:2025年2月25日
判型:四六判
製本:並製
頁数:248頁+口絵4頁
ISBN:978-4-7505-1866-4

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