朝ドラ『あんぱん』で注目集まる、やなせたかし 思考の"原点"を理解するための3冊
NHKの連続テレビ小説として3月31日から放送が始まった『あんぱん』は、絵本やTVアニメで人気の『アンパンマン』を生み出したやなせたかしの妻・暢子がモデルの女性をヒロインにしたドラマだ。そこでは、やなせたかしが生涯抱き続けた戦争を嫌う気持ちや、戦争で死んだ弟・千尋への思いが、『アンパンマン』などの作品に込められたように、ドラマでも描かれそう。やなせたかしの著作から、そうした思考がどのような体験を通して育まれたのかが分かる3冊を選んでみた。
「なんのために生まれて…」アニメOP曲にしては重すぎる歌詞
「なんのために生まれてなにをして生きるのか」。やなせたかしが自ら作詞したTVアニメ『それいけ!アンパンマン』の主題歌「アンパンマンのマーチ」に盛り込まれたこの言葉は、作品を見ていそうな幼児にはなかなか重たい問いかけだ。
1995年に『もうひとつのアンパンマン物語』(PHP研究所)として刊行され、2022年に『ボクと、正義と、アンパンマン なんのために生まれて、なにをして生きるのか』(PHP研究所)として再刊されたエッセイ集でも、冒頭に「アンパンマンマーチ」の歌詞を置き、「自分の思いをそのまま歌詞にしたまでのこと」と明かしている。
「もしアンパンマンの主題歌を他の作詞家に依頼したら"かわいい、かわいい、アンパンマン"式のものができたでしょう」と添えるくらい、幼児向けアニメのセオリーからは外れていたことは理解していたようだ。それでも、物語が子どもに大きな影響を与えることを自覚し、子どもたちに覚えておいて欲しいと言葉として、「なんのために生まれてなにをして生きるのか」を使ったのかもしれない。
「子どもの時に心に染みこんだものは、大人になって出てきます」。よく意味が分からないまま口ずさんでいた「アンパンマンのマーチ」の歌詞が、大人になってフッと浮かび生きる意味を問い直すきっかけになる。やなせたかしがその瞬間を喜ばせるだけに留まらない、長い長い人生において糧となるような作品を送り出そうと思い続けてきたことが感じ取れる記述だ。
善と悪とのバランスを保つことの大切さについても、『アンパンマン』を引き合いにして触れている。「素手で武器を持つ敵と戦っているのがアンパンマン。しかし徹底的に敵を打ちのめすというところまではいかない」。時に許すことも大切だということだろう。「戦いながらアンパンマンとバイキンマンは共存しています。ボクらの心には善と悪があります。善と悪とは戦いながら共存しています」。
絵本やアニメを通じて、そうしたやなせたかしの思いに触れた子どもたちの全員が、成長して善と悪のバランスを保ち続け、許す心も失わないでいられるかは難しいところだが、決して少なくない数の「アンパンマン」たちが送り出されていることは確かだろう。やなせたかし亡き今も、一連の作品やこうしたエッセイ集がその思いを繋ぎ、ドラマ『あんぱん』で改めて世の中に広まれば、本人にとっても嬉しいことだろう。