アトラスはいかにして尖った作品を世に送り出してきたのか? さやわかが語る、RPGのつくりかた
これからプレイする人にも読んでもらいたい
ーーさて、『メタファー』が志向した「JRPG」は、一面的な見方として「ダサいもの」として受け取られていた時期がありました。最近では再評価が進んでいますね。
さやわか:「JRPG」はそもそも海外の文脈で「日本のゲームは面白くない」と揶揄する蔑称でした。しかしそれが、近年で「ストーリー性が豊かで、コマンド式のバトルで戦略性が高く、人を選ばずプレイできる」という魅力として捉えられるようになってきた。『メタファー』に関しても海外のレビューに「JRPGの傑作で、新しい一歩だ」という趣旨のものが多く、胸のすく思いでしたが、まさに日本製のRPGの特徴を磨いて伸ばす、という橋野さんの取り組みが成功したということです。橋野さんは取材の最終盤で「JRPG 3.0」ということを話し始めた時に、「とんでもないことが起きている」と思いました。アトラスは、あるいは橋野さんがJRPGを背負っていくんだということをはっきりと言葉にしてくれたのが非常にうれしくて、本の結びとしてありがたいメッセージをいただいたなと。自分がいなくなった後も、それを後輩につないでいけるようにしたい、というメッセージに感動しました。
ーーちなみに、海外でのJRPGの再評価は昨今のアニメブーム的な文脈とも関係がありそうですか。
さやわか:関係していると思います。橋野さんはJRPGのスタイルを「キャラクターを中心とした物語を見せるゲームスタイル」と捉えているところがある。FPS(一人称視点のシューティングゲーム)にも『オーバーウォッチ』のようにキャラクターを重視した作品はありますが、RPGのようにひとつのナラティブで、物語があってメッセージを伝えるという形はなかなか取りづらい。ノベルゲームよりフィジカルに近く没入性があって、アクションゲームより戦略性が高くプレイしやすい。その中心にあるのはキャラクターで、アニメや漫画という文化とは密接な関係にあると思います。
ーー「クールジャパン」の最先端はJRPGにあるかもしれない。
さやわか:そうだと思います。『メタファー』は全世界同時発売でしたが、あまりにもボリュームのある体験版から海外ユーザーもよろこんでいて、「役者の演技がすごい」「社会情勢にも関係があって、多くのことを考えさせられる」みたいなことが盛んに語られていて。アトラスのチームが考えたことが真っ直ぐ、意図通りに受け取られていることがうれしかった。より多くの人にプレイしてほしいですね。
ーーそんなJRPGというシーンを牽引していると言っていい、豪華なクリエイターたちの「証言」も読み応えがあります。キャラクターデザインの副島成記氏、シナリオの田中裕一郎氏、戦闘システム面では後藤健一氏など、ゲームフリーク垂涎のオールスターですね。
さやわか:すごいですよね。いつもはツラッとしているのですが、思わず「この人も出てくれるんだ!」と(笑)。540ページ以上のボリュームで、橋野さんの加筆も含めて内容がみっちり詰まっています。
ーー『メタファー』という作品への解像度が上がり、プレイするのが楽しくなりました。プレイヤー自身への問いかけも含めたメタ的な視点のある作品だからこそ、制作背景を知ることが「ネタバレ」ではなく、より深い楽しみを生み出すものになっていると思います。
さやわか:そうですね。実際、僕はこのゲームがどういう思想で、何を気にして、どこに力を注いで作られたか取材してきましたし、物語のグラウンドデザインもプロットラインもなんとなく知っている状態でプレイしたのですが、本当に面白かった。答え合わせのように読んでも楽しいと思いますが、これからプレイする人にも読んでもらいたいです。
ーーその一方で、お話にも出たようにリーダー論、組織論としても読めますし、一つの製品が完成するまでのドキュメンタリーとしても、有名クリエイターのクリエイティブ論としても読むことができます。懐の深い一冊になりましたね。
さやわか:そうですね。「会議は場当たり的にやる」みたいな話はビジネスパーソンに読んでもらいたい話で、定例会議にすると直前まで何もしないというのは、本当にそうだなと思います(笑)。本当にいろんな作り方ができた本で、もっとオフィシャルっぽいものにもできたし、ゲーム開発のノウハウに特化することもできました。そのなかで、『メタファー』という作品がそうであるように、「クリエイティブとはどんなものか」という本質にさまざまな角度から迫る本になってよかったと思います。『メタファー』があらゆる人に届けられるゲームだからこそ、この本もあらゆる人に読んでもらえたらいいなと。
■書誌情報
『RPGのつくりかた——橋野桂と『メタファー:リファンタジオ』』
著者:さやわか
監修:アトラス
価格:2,640円
発売日:2025年2月5日