氷河期世代の自尊と自虐に身悶えしたくなる “ひきこもり世代のトップランナー”滝本竜彦の現在地

『超人計画』から22年で変化したもの、しなかったもの

滝本竜彦『超人計画インフィニティ』(ホーム社)

 ひきこもり界のトップランナーが今、氷河期世代のトップランナーとして世界に吠える。TVアニメにもなった『NHKにようこそ!』(角川文庫)でゼロ年代の迷える若者たちを惹きつけた小説家の滝本竜彦による『超人計画インフィニティ』(集英社)は、小説的エッセイ『超人計画』(角川文庫)から22年ぶりとなる続編だ。小説が書けずバイトや派遣で食いつなぎ、彼女を妄想しながら「超人」を目指すアラフィフ男の叫びが、同じように彷徨い続けている人々を鼓舞して導く。

「俺は死なない。なぜなら俺は死なないからだ」。滝本竜彦ならではと言える強烈な言葉から幕を開ける『超人計画インフィニティ』を開き、読み進めていった人が感じるのは、混沌として先が見えない時代を生きる人たちが抱きがちな、自尊と自虐がない交ぜになった複雑な心境だ。

 永遠に生きると決意し、プレステ200が発売される西暦3000年に1022歳になった自分が、最新のプレステで遊ぶ姿をイメージして、これが現実のものとなるために何かを始めようとする。滝本竜彦を主人公にして綴られる私小説的な体裁の『超人計画インフィニティ』に描かれるその主張は、ある意味でポジティブだがただの世迷い言を逃避的に嘯いているだけに見えなくもない。

 2003年に『超人計画』を刊行し、その中で「事実この二年、僕はまったく仕事をしなかった」という状況から、ルサンチマンを捨てて超人になるための活動を始めると宣言していた頃と、態度としてまったく変わっていないとも言える。もっとも、20代だったころは、自嘲めいた言動も若さだからとポジティブに受け取られた。『ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂ』『NHKにようこそ!』とヒット作を連発していた状況から、自嘲もただの謙遜で、次も凄い作品を送り出してくれると信じて応援できた。

 新作がなかなか書けず、鬱々とした日々を過ごしている自分が脳内彼女の叱咤で動こうとする様子をネタにしても、ここから再起が始まるのだといった期待ができた。そして22年が過ぎた。

『NHKにようこそ!』がTVアニメになってヒットし、『ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂ』も『べらぼう』で話題の市原隼人主演で映画になっても、滝本竜彦の小説家としての筆は途切れがちになって存在感を薄れさせていった。この間、デビュー時期が近い西尾維新が途切れない活動を続けて絶大な支持を獲得し、角川学園小説大賞で同期の米澤穂信が直木賞の受賞し選考委員にまでなった。

 それだけの時間を過ごし、それほどの周囲の変化を目の当たりにして来た滝本竜彦が、続編となる『超人計画インフィニティ』を出した。さあ復活だ! そう思って手に取ったファンに向けて繰り出されているのが、自分は死なないという陶然としたスタンスであり、同時に日々を派遣やアルバイトで過ごして糧を得るといった清貧なり貧困を題材にした私小説のようなストーリーだ。

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