現実のスパイ、どんな活動をしている? まるで映画顔負けだった「カナダの策謀」作戦とは?
フィクションにおいて、スパイものは花形ジャンルの一つだろう。情報機関や防諜機関と呼べるような専門的な組織が存在しないわが国では、スパイといえば、アニメ、漫画の題材になることが多い。今回スパイの作戦にフォーカスをして考察していきたい。
CIA、MI6、KGB……フィクションに登場するスパイ組織 リアルとはどう違う?
■実際のスパイ、どのような組織で構成されている? フィクションにおいて、スパイものは花形ジャンルの一つだろう。 今年…リアルなスパイ、どんな活動をしている? 漫画・アニメとは異なる大原則といえば?
■リアルなスパイ、一体何をする? フィクションにおいて、スパイものは花形ジャンルの一つだろう。情報機関や防諜機関と呼べるよ…■奇想天外な作戦
これまでスパイの組織やリアルな実態について見てきたが、スパイの世界は思いのほか地味であることがわかるが、現実に映画顔負けの奇抜な作戦を諜報機関が実行する場合がある。CIAが実行した「カナダの策謀」作戦はその有名な例の一つだろう。1979年、反米デモ隊がテヘラン(イラン)のアメリカ大使館を占拠し52人のアメリカ人外交官が人質に取られたが、ひそかに6人の外交官が脱出に成功していた。近くにあったカナダ大使公邸に匿われた6人をひそかに脱出させるために、CIAが密かに計画・実行したのが「カナダの策謀」作戦である。その内容は偽映画『アルゴ』を企画し、6人の外交官をロケハンに来た映画スタッフに偽装して国外に脱出させるという奇想天外なものだった。作戦には高名な特殊メイクアップアーティストのジョン・チェンバースが協力し、6人をアメリカにイラン国外に脱出させることに成功している。作戦を現場指揮したCIA工作員のトニー・メンデスは後に回想録『The Master of Disguise』を発表しており、同書を基にした映画『アルゴ』はアカデミー賞の最優秀作品賞を獲得した。
イギリス軍が実行した「ミンスミート」作戦も奇抜な作戦の有名な例だ。ミンスミート作戦は第二次大戦中に実行された欺瞞作戦で、ナチス・ドイツに連合国軍の反攻予定地はギリシャとサルデーニャを計画していると思い込ませ、実際の計画地がシチリアであることを秘匿することに成功した。作戦の内容は奇抜そのもので、偽の身分を与えて偽の情報を仕込んだ死体を、中立国のスペインに流れ着くように放流し、偶然を装ってナチス・ドイツに入手させるというものである。
この作戦の立案に、当時軍属だった「007」シリーズの作者イアン・フレミングが関わっている。この奇抜な作戦はベン・マッキンタイアー (著), 小林 朋則 (翻訳)『ナチを欺いた死体 - 英国の奇策・ミンスミート作戦の真実』(中央公論社)で詳細を知ることができる。架空の人物「ビル・マーティン少佐」が造形されていく様は、さながら作家が物語を生み出す過程のようである。同書は『オペレーション・ミンスミート ―ナチを欺いた死体―』として映画化もされている。
ちなみにイギリスにはジョン・ル・カレ、イアン・フレミング以外にも諜報機関で働いていた経験のある大物作家がいる。グレアム・グリーンとサマセット・モームはイギリス文学史を勉強すると必ず名前の出てくる大物作家だが、この二人は二人とも元MI6の諜報員である。グリーンは二重スパイとして暗躍し、後にソビエトに寝返った「ケンブリッジ・ファイブ」の中心人物だったキム・フィルビーの部下として働いていたこともある。グリーンのスパイ小説『ヒューマン・ファクター』は「ケンブリッジ・ファイブ」事件に触発されて書かれた作品である。『月と六ペンス』など純文学的なイメージの強いモームだが、彼の連作短編集『英国諜報員アシェンデン』はスパイ小説の古典としてこちらも名高い。
※本稿執筆にあたり主に下記書籍を参考としていることをお断りしておく。
加賀山卓朗(著)、♪akira(著)、松島由林(イラスト)『警察・スパイ組織 解剖図鑑』(エクスナレッジ)
ロバート・ベア (著)、佐々田 雅子 (翻訳)『CIAは何をしていた?』(新潮社)
池上彰 (著)『世界史を変えたスパイたち』(日経BP)
落合浩太郎 (監修)『近現代 スパイの作法』(ジー・ビー)