ジャンプ漫画『ワールドトリガー』なぜ展開が遅い? 『ヒロアカ』『呪術廻戦』に繋がる”全員主人公”物語
23巻から物語は、次の遠征に参加する隊員をB級隊員の中から選ぶ「遠征選抜試験」が描かれる。そこでは中位以上のB級隊員と一部のA級隊員をシャッフルして5人編成の11の臨時部隊が結成されており、閉鎖環境で与えられた課題を競うチーム戦が展開されている。
この遠征選抜試験はランク戦以上にゲーム性が増しており、11の部隊の人間模様を同時に描いているため、物語の展開も遅くなっている。そのため、読んでいてやきもきするのだが、修たち三雲隊のメンバーを一度バラバラにして敵対していた隊員たちとチームを組ませることで、それぞれのキャラクターの魅力を更に掘り下げようとしていることが次第にわかってくる。
最新巻となる28巻の終盤では、隊長の一人に選ばれた香取隊の若村麓郎がフィーチャーされる。判断力の遅さからチームの足を引っ張っていることに麓郎は悩んでおり、後に三雲隊に所属したヒュースに「オレと 三雲は」「何が ちがうんだ ……!?」と尋ねる。
当初は答えることに躊躇したヒュースは麓郎の師匠にあたる犬飼の承諾を得た上で、修と麓郎の違いを指摘し、麓郎は自分の認識の甘さに気づいていく。二人のやりとりは主人公の修の魅力を再確認させるものとなっているが、何より他の漫画ならモブキャラとして扱われていただろう麓郎に焦点を当てるエピソードとなっている。
麓郎が愕然としたところで物語は次巻に続くとなるのだが、彼も修のように自分のやるべきことを自覚し、隊員として飛躍するのだろうか? 真面目で優しいが、弱くて冴えない主人公だった修の成長を描くことで『ワールドトリガー』は良質の少年漫画として高い評価を獲得した。
修以上に冴えない姿を晒している麓郎だが、的確な自己分析と地道な努力によって彼が成長を遂げる姿を描くことができたならば、全員主人公の漫画として本作は新たなステージに到達するのではないかと思う。今後の展開が楽しみだ。